NHKスペシャル「AIに聞いてみたどうすんのよ!?ニッポン」の酷いミスリード
保科省吾[コラムニスト]
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AI(人工知能)を駆使して日本の社会問題の解決策を探るNHKスペシャルのシリーズ「AIに聞いてみたどうすんのよ!? ニッポン」の2018年3月3日に放送された「第二回 働き方」を見た。司会はマツコ・デラックスと有働由美子アナ。
今回の放送をみてまず思ったことは、素人(視聴者)にはわかりにくい因果関係と相関関係をわざと(おそらく、番組制作者が予定調和的に考えるおもしろい方向に故意に導こうとして〜その番組の作り方は視聴者を馬鹿にしている誤った方法だと思うが)ごっちゃにして論じている、ということだ。この傾向は前回にひきつづきであり、またしてもである。悪意があるとさえ感じる。
同じような指摘があったのであろう。冒頭で筆頭パネリストである元経産官僚、東京大学教授・坂田一郎氏に次のように言わせている。
「AIは因果関係を教えてくれない。AIが出した結果をヒントに考え人間が読み解く」
ならば、見る必要はあまりないとも感じる。坂田教授に言わせたのは「言い訳」で、この番組の趣旨だということであろう。
前提として簡単に因果関係と相関関係の違いを説明しておく。
「ひどく酔っ払って、靴を履いたまま寝ると、起きたとき頭痛になることが多い」
このことから、
「靴を履いたまま寝るとが頭痛を引き起こす」
とは言えないが、相関関係はある。因果関係のほうは、
「ひどく酔っ払って寝ると起きたとき頭痛になることが多い」
である。AIとはいわゆるビッグデータから因果関係を導き出すインテリジェンスだと筆者は考えるが、このNHKが開発したと称するAIは全く因果関係を導き出さない。
【参考】<パソコン未所有と貧困は無関係>NHKが描く「貧困女子高生」のリアリティの低さ?
前述した坂田氏の「AIは因果関係を教えてくれない。AIが出した結果をヒントに考え人間が読み解く」という言葉はAIという装置そのものに対するNHK的意見表明だと読むことも出来る(AI万能みたいな論はただの神話です)。しかしながら、番組の中で発せられたと言うことを考えれば、NHKのAIは相関関係しか導き出せていないので、まだ能力が足りない。マツコ・デラックスと有働のトークショーだと思ってお気楽に見て下さい、という番組の存在理由の説明かも知れない。
さて、今回、番組がとり挙げるのは世の中を騒がせる「働き方」改革。NHKのAIがみつけた相関関係は「仕事の効率を上げたいなら、11時間54分以上働け!?」であった。これには、驚くべきことに「健康に関するデータは読み込ませていないという」言い訳が行われる。
なんたることか。労働問題の肝はまさしくそこであろう。健康に関するデータを読み込ませないで出したこの数字は意図的なミスリード、端的に言うなら虚偽であると断じるしかない。スーパー裁量労働制・高度プロフェッショナル制度に関して厚労省の出してきた統計数字と同類のものであるといわざるを得ない。
このデータを受けて「AIが出した結果をヒントに考え人間が読み解く」のが番組の趣旨といっても、いかな喋り上手のマツコと有働でも興趣が湧かない。さすがに見る気が起こらない。NHKはこの番組に使っている相関関係しか導き出さない。データ読みとり装置をAIと称してはいけない。
AIに就職のエントリーシートを読み取らせる動きもあるそうだが、それがNHKの使っているような相関関係だけのAIであるとすれば、あまりに未来が暗い。
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