<決定版・欽ちゃんインタビュー>萩本欽一の財産②台本に台詞は要らない

エンタメ・芸能

高橋秀樹[放送作家]
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「萩本欽一インタビュー」その①はこちら
大将(萩本欽一)はテレビで大事なのは”遠い”こと、だと言う。どういうことだろう。

「テレビでは“近い”と”早い”は、失敗する」

「例えば『お前ね、ダメだよ』と、いうセリフ、『お前ね』と『ダメだよ』を続けて早く言っちゃいけない。『お前ね、<間>ダメだよ』という風に間が入るんだ。この<間>が、セリフを言う人の感情を入れる場所」

「熱いお茶は熱くない。熱い湯のみを触って熱いって言ってごらん、というと素人は触ってすぐに『熱いっ』て言う。それじゃダメ。湯のみを触って<間>があって、それから『熱いっ』。それが笑いになる」

「これが“遅い”だ」

「例えば、笑いの台本でセリフをきちんと書き込んである台本。これは“近い”だ。『私は行きたい』と書いてあるとする。演者はすると何も考えずに『私は行きたい』と言ってしまう。演者が考えないで近道を行っちゃうんだだな、これはダメ。だから台本には『私は行き……』と書いてある方がいい、すると演者は遠回りせざるを得ない。行きたいんだもん、て言おうか、行きますぜ、か、行きとうございます、か、考える。これが“遠い”」

「だから、僕は作家に『セリフを書くな』って言う」

おっしゃることはよくわかるが、作家がセリフを書かないのは実に難しい。

「僕が、テレビを素人だらけにしたと言われるけど、それには、文句を言いたい。僕は、浅草にいて、売れるまで6年位ずっと素人同然だった。その間、素人道を極めた。素人のベテランになった。だから素人のことがよく分かる。わかったことは、素人は素人のままで出しちゃダメだということだ。素人には追い詰めてゆくとほんの一瞬、プロの域に達することがある。素人をそこまで仕立ててテレビに出した。言うなればその瞬間はまるで素人のようにやれるプロだ」

「ずいぶん遠い道のりですねえ」と僕。

「だから、いいんだ」

「素人、即ち、”遠い”と」

「そう。ただ、素人が、プロの域に入るのは一瞬で、他の長い間は本当に素人だからそこは映しちゃいけない。一番ダメなのは素人は、手さばき、足さばきができない」

「体に点が、はいっていないということですか」

「ううん、そんな高度な話じゃない。手の置きどころ、足の納めどころがなくで棒立ち」

「それを見せないようにするには、素人は正面から撮ることだ。だから普通は真ん中の正面に立っていて、一歩前にでて、セリフ、一歩下がってそれでおしまい」

「出演者のキャスティングも遠くする。子役なら普通は劇団に電話してオーディションに呼びますって言うから、それはダメだって。ラクしてるもん、近い道を行こうとしてるもん。だから、電話してキャスティングだけはするなって。竹島(達修=フジテレビ「欽ドン!」チーフディレクター)ちゃんは、九州からずっと旅して、めぼしい人を見つけてオーデイションに全部連れてきた」

「僕がよく言う、『聞いちゃダメ』というのも、”遠く”しなさいってこと。聞いて答えを教えてもらっちゃったら、それ近道でしょう」

「テレビで嫌なことでもやってみるというのは”遠い”だなあ。嫌なことをやってみると、色々発見があって、それが役に立つ」

「大将、嫌だった仕事は何ですか」

「マラソンだな」

66歳の大将は2007年に放送された『24時間テレビ30「愛は地球を救う」』のチャリティーマラソンランナーとして、70kmを走った。

「走って、なにか発見はありましたか」

「2度とやってはいけない」

失礼かと思ったが、僕は大声を上げて笑ってしまった。

「他に、大将、嫌な仕事はなんでしたか」

「司会だなあ」

ナゼ、司会が嫌か、これは大将の回りにいる人ならだれでも知っていることかもしれない。
(その③につづく)
 
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