<決定版・欽ちゃんインタビュー>萩本欽一の財産①テレビで大事なのは“遠い”こと
高橋秀樹[放送作家]
※このインタビューを故・常田久仁子さんに捧げます。
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「お前インタビュー下手だな」
4時間に渡る第一回目のインタビューを終えた時に大将「萩本欽一」にそう声をかけられた。
「きょう喋ったことは、全部どっかで喋ってるぞ」
大将すみません。僕はどこかで聞いた大将の発言をもう一度自分の耳で確かめたかったのです。だから、あえて……。
次に大将は、僕にこう聞いた。
「作家やって家は建ったか」
「1軒だけ」
「そりゃあよかった」
なんと返答してよいかわからない。
「また来ていいですか」
「いいよ」
「ありがとうございました」
これから、僕は最低でも半年、長ければ1年、大将の家に週一回通って、話を聞き、大将のエキスを活字にする。萩本欽一の持っているものづくりのノウハウ、言うなれば「萩本欽一の財産」を、記録する。もちろん、それは、僕自身が大将に興味があるからだが、もうひとつの理由は、ある人との約束があるからだ。
2014年10月1日水曜日。朝から雨。僕の家は大将の事務所と自転車で5分ほどしか離れていないが、これでは傘をさしていくしかあるまいと考えていると、雨が小ぶりになってきた。
今のうちに行こう。大将の事務所の前に着いたのは約束の1時間も前だった。近くの店「サンカツ」で時間をつぶす。店のおばちゃんは大将とも顔見知りだ。60も近くなると緊張することなどあまりなくなるものだが、今日は違う、あまりにありきたりの比喩で申し訳ないが、僕にとって、大将は神様のような人だ。
おばちゃんが「今日からコーヒーマシンが入ってねえ」と絶妙の進め方をしてくれたので、僕はたっぷりのコーヒーを頼んで緊張を押さえる。そういえば、なんの手土産も持ってきていない。サンカツで豆大福5つとシフォンケーキを買う。
呼び鈴を押す。大将が直接出てこないとも限らない。直立していると、出てきたのは旧知の裕ちゃんだった。ほっとする。二階に上がると低いガラスのテーブルを前にして、無精髭でパジャマ姿の欽ちゃんが座っていた。このパジャマ姿が欽ちゃんお抱えのブレーン作家集団「パジャマ党」の命名由来だ
大将はテレビでロイヤルズ対アスレティックスの地区シリーズ進出決定戦を見ていた。僕が挨拶をする間もなく大将がしゃべりだす。
「野球は練習しちゃダメなんだよ。中学・高校・大学・プロとずっと練習して、それで打てるのはたかだか3割でしょ。いくら練習しても、6割も、7割も打てるようになるわけじゃない。だったら発想変える。必ずフォアボールが取れる選手になる。フォアボールだけで出塁率10割。そういうの目指さなきゃ」
ああ、そうそう、と僕は思う。大将はいつも、逆張りの人、発想の転換を最上の考え方とする人だ。
「野球の監督もやってみた(茨城ゴールデン・ゴールズ)ガム噛んでバッターボックスに立つ奴は試合に出さない、口の中で美味しいと思ってるから、バットで美味しいヒットが打てるわけがない」
「茶髪の奴は出さないって決めたこともある。そしたら、そう宣言した訳でもないのに、雰囲気でわかるんだねえ。みんな黒い髪になっちゃった。それはそれで面白くない」
「グランドでツバ吐く奴、永久追放。サラリーマンは会社の床にツバ吐きません」
大将の野球に関する考え方には、統一感が見つけられない。きっと、大将にとって野球は、まだ自分の手中に入っていない種目なのだろう、と僕は、思うことにする。そして、強引に話題を変える。
「大将、テレビの話を聞いてもいいですか?」
「『田舎に泊まろう!』(テレビ東京)に出た。僕が声をかけたら、最初の人が、泊まっていけよっていう。次の人も、次の人も、みんな泊まっていいよっていう。で、夜8時位になっちゃった。ディレクターが、そろそろ決めたらどうですかっていうの。でも僕は決めない。ナゼかって言うと、テレビに写って視聴率が取れる顔の人を探していたから」
「素人の人には写っても嫌にならない顔ってのがあるんだ。そういう人を見つけたら嫌だって言っても泊めてくれって粘る」
僕が聞く。
「メジャ−顔とマイナー顔という風に僕は言ってますけど、同じですか?」
「まあ。同じかな。具体的に言うことはできるけど、言うと、ああ、あの芸能人のことだなってわかっちゃうから言えない」
「テレビで、一番大事なことは“遠い”ってことなんだよ。」
「仲々、泊まる家を決めない。遠回りをすることですか」
「それも遠いだな。でも遠いにはもっとたくさんの意味がある」
大将は中空を睨んで、ちょっと遠い目をした。
(その②につづく)
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