<コロナ時評>あとひとり、スタッフが倒れたら介護崩壊でした
山口道宏[ジャーナリスト、星槎大学教授、日本ペンクラブ会員]
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常時、消毒液を持ち歩いている。
玄関前で自身の来訪を伝えると、その場で服を着替え持参の袋にさっと詰め、室内へ持ち込むもの一切は「消毒済み」の状態に。そして実務の最中は、室内の換気に気をつかい、直接の接触を避けてのケアだから難しい。また終われば急いで支度をすませ逃げるように立ち去る。
「後ろ髪が引かれるようでつらいです」
この間、利用者との会話は「ほとんどしない」といい、これが1日5〜6件。むろん気疲れも大きいが「それでも待ってくれているから」(首都圏・ヘルパー)と悩ましい。
「洋服の着脱のケアは普段でも10分かかるけど、もう大変です」
訪問系では「ソーシャルディステンス」(社会的距離)に気を配り、身体介護というのに「触れない介護」に苦戦する。いうまでもなく「ひとに寄り添うこと」と「3密」の関係性は深いものがある。とりわけ訪問入浴では「ベッドからお風呂へ利用者さんを抱きかかえるので直接接触は避けられないし、入浴にマスク着用は到底求められませんから」
[参考]<コロナ時評・医療のシステム難民を救え>保健所半減のツケがもたらすもの
ケアマネージャも「個々のきめ細かいケアプランがつくれなくて」「ひと(介護士)がいなくて」「事業所にもひとがいない」とこぼし、事業所は利用回数の減少から収入源となり「まったく、ひとの手配がつかない状態です」と語ると、次の言葉を飲み込んだ。
施設系ではどうか。ある特養の施設長(都内)は「集団感染で職員の退職もあって、いよいよ人手不足です」「(人手不足で)シフトが組めない状態に」「あとひとり、スタッフが倒れたらもう介護崩壊でした」と深い溜息を吐いた。
「コロナ」のまえから、その萌芽はあった。
介護崩壊とは、ほとんどが介護労働の崩壊といっていい。東京都では全職種平均求人倍率1.19倍に対して介護サービス(一般常用)で5.40倍、介護サービス(パート常用)で8.56倍。現場で介護の担い手不足がいわれ15年が経つも状況は相変わらず深刻だ。
介護職員は、2020年度末には約216万人、2025年度末には約245万人が。2016年度の約190万人に加え2020年度末までに約26万人、2025年度末までに約55万人、年間6万人程度の「新たな介護人材の確保が必要」と国は謳うが(第7期介護保険事業計画)、2000年の介護保険施行時は介護職人気が最高で養成校も林立するも、まもなくして「介護の人材が逃げていく」(NHK)といった事態の到来だ。2008年専門専門学校271校は2009年239校に、2020年では217校に大きく減少。入学者は2006年で定員26.855人に対し19.289人、2020年で定員13.619人に。「定員割れ」で入学者は7.042人、うち34%が外国人、10%が離職者訓練生という内訳だ。
「まったく(計画は) 絵にかいた餅ですから」
長年、介護人材育成に携わった元介護養成校の教員は、よほど腹に据えかねたらしく、そう憤った。「介護保険」の事業収入は介護報酬に依拠するから、常に事業者は「収入」と「ひと」と「シフト」に苦悩する。そして「コロナ」による利用者減で、いよいよ閉鎖に追い込まれた事業者もいた。
利用者は、ケアマネを通して別の事業者探しも発生し、慣れないサービスに余儀なく「変更」というケースも。一部では「ケアプラン」の形骸化も始まり、サービスの質や量、サービス提供の基準と効果など「適正を図れない」という声も寄せられた。メディアも、この頃になると「高齢者要介護度 全国的に悪化が 区分変更申請 緊急」(時事2021.1.1)と報じている。
では、「コロナ」で事業者の収入減に、公的な補償はどうか。
介護施設には、「施設内感染発生時」(厚労省)は、「ゾーニング」(生活空間の区分け)と「コホーティング」(感染者区別・隔離)の取り組みを要請。東京都では「3密」の徹底、「施設間応援の参画要請」、消毒・清掃・マスクなどの「かかりまし費用」と「PCR検査費用」の補助といったところ。
また期間を定めて使用制限、使用停止、休業、規模縮小の要請をすることもありうる、と書面で通知している。医療と併せ、介護面でも、介護報酬とは別枠の十分な手当てがなくてはならないは必定、なにしろ医療崩壊と介護崩壊は同時に進行しているのだから。いつだって、食事補給は、水分補給は、オムツ交換は、お風呂は、多岐に亘る生活支援と体調管理は、だれがどこでどう担うのか!!
「コロナ」の出現は、思いがけず、ことの本質を衝いてきた。
ここでも、我が国の現行の介護福祉制度の底流まで、その検証が急がれる。
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