露骨なステマで崩れ落ちた「報道ステーション」の信頼感

テレビ

高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
***
11月4日のテレビ朝日「報道ステーション」には、あきれた。番組の正味放送時間(CMを除いた放送時間)のほぼ4分の1を使って自社宣伝が放送されたのである。
この日のゲストコメンテーターは、芸能人の個人ブログなどが注目されているアメーバブログを運営するサイバーエージェント社・藤田晋社長。社長が紹介された途端悪い予感がしたが、その予感は当たっていた。
韓国朴槿恵大統領の不祥事。アメリカ大統領選でのトランプ候補猛追、TPP強行採決などを伝えた後、藤田社長を迎えた意味が明らかになった。
サイバーエージェントとテレビ朝日の共同出資により設立されたPC・スマートフォン向けのインターネットテレビ「AbemaTV」の紹介が始まったのである。
ようは、AbemaTV(アベマ)のステルス・マーケティング、いわゆる「ステマ」だ。言うまでもなく、ステマとは、消費者に宣伝と気づかれないように宣伝行為をすることだ。英語ではアンダーカバー・マーケティング(Undercover Marketing)とも呼ばれるから、その名の通り、袖の下広告である。ネットの世界では最もやってはいけない禁忌行為のひとつである。
さて、「AbemaTV藤田氏に聞くテレビとニュースのこれから」と題して、ニュースを装ってはいるものの内容は以下のようなありさまだ。

  • 藤田社長によるAbemaTVを、視聴するためのアプリの紹介。
  • おなじく、アプリが1000万ダウンロードを達成した報告。
  • 誰でも知っているようなおざなりのテレビ発達史(VTR)
  • AbemaTVが熊本大震災で役立った話(VTR)
  • AbemaTVスタジオとテレビ朝日スタジオ「報道ステーション」の同時中継。

これを「ステマ」と呼ぶには、本当のステルス・マーケティングに対して失礼だと思えるほどの露骨な宣伝である。しかし、CMとして放送しているわけではないから、ニュースであり、番組なのだろう。だとすれば、仕組みとしてはやはりステマなのだ。
【参考】<NHKが放送する番組宣伝はCM?>番組宣伝「番組」は不快を超えた視聴者への背信
もちろん、ステマ展開ではあるが、もしかすると単なるステマでは収まらない面白い情報が聞けるかもしれないと、筆者は番組を見続けた。それはネット界の寵児のひとりである藤田氏から「これからのテレビとニュース」に対して教示を得たかったからである。
しかし語られたことは、

  • 1000万ダウンロードは予想より早く達成したが、見ている人は100万人くらい。
  • 地上波テレビは若い人が見なくなっている。ただ、視聴率に縛られたらじり貧位なるだけなので、工夫すればこれからも20%を超える番組は出来る。
  • 自分たちの目標はメディア企業になることである。

・・・といった程度のことである。藤田社長の究極の目標は「メディア企業になること」である点を確認できたことくらいが収穫であるが、そんなことは言われずとも誰でも勘づいてる。藤田社長も、TBSが欲しかった楽天の三木谷浩史氏や、フジテレビが欲しかった堀江貴文氏と同じなのである。
さて、このAbemaTV特集、司会が久米宏氏や古舘伊知郎氏なら、やるかやらないかで大もめになったことが予想される。しかし、テレビ朝日の社員である富川悠太アナでは上層部の命令を拒む訳にはいかない。
古舘伊知郎氏の押しつけがましさから富川アナのフラットな司会に代わって、筆者は「報道ステーション」を好ましく思っていたが、今回のステマで、その信頼感はガラガラと崩れ落ちた。
もちろん、「番組ごとステマ」のような番組を多い昨今、今回の「報道ステーション」を見ても、筆者のように驚く人は、意外と少ないのかもしれないが。
 
【あわせて読みたい】