<ノンフィクションの種:面白さは現場が判断する>今、テレビ作りは「面白がる」ということを人任せにしていないか?

テレビ

高橋正嘉[TBS「時事放談」プロデューサー]

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ロケ先でディレクターが「何を面白がるか」はもっとも大事なことだろう。これを人に任せてしまっては説明的な画(え)しか取れない。しかし、今「面白がる」ということが人任せになっているような気がする。

それはチーフDが判断する、総合演出が判断する、いやプロデューサーだ、いや制Pだということになる。現場にいない人の名前を出す。後でわいわい言われるのだろう。確かにいろいろな人がいろいろな判断をすることはある。
だが「面白がる」というモチベーションに関わることが「人任せ」になるとは思わない。もちろん「面白がる」物がすべて面白くなるとは限らないが、「面白がれない」物は少なくとも面白くなるとは思えない。面白くなる第一歩は少なくとも「面白がる」ことにある。
かつて、ある番組で「フランス料理」を取材したことがある。
特別予算がついたので国内取材に加えてフランス取材を行った。店の庭にヘリポートがあり、客がヘリコプターで食べに来るなどということを売りにしているレストランやリヨンの近郊で宿泊も行う小さなひとつ星レストラン、ロアンヌにある三ツ星レストラン・トロワグロ等を取材した。
トロワグロは日本の影響も受け何人もの日本人が修行しただけあり日本に対する理解もあり、丹念に取材したら面白いだろうなと思った。サービスが面白い。ソースのかけ方一つにしても芸になっている。目の前で出来上がった料理にソースをかけるのだが、それがちゃんと模様になっている。デザートも凝ったものだった。
リヨンのひとつ星レストランではスープにかける情熱はすごいものだと思った。朝から市場に買い物に行き、オマールえびをたくさん買い込み、午後には調理をした。ずいぶん時間をかけ調理していたが、最後には結局オマールえびはすべて捨ててしまった。残ったのは透き通ったスープだったが、これが少量なのだ。このスープがこの店の売りなのだ。
フランスの取材は面白いなと思ったが、結局説明でしかない。本来なら一番有名なトロワグロの店で何とかネタを見つけてくるべきだったかもしれないが、いかんせん取材に慣れすぎていた。見せれば良いコツを知っていた。ともかく要領よく取材に応じてくれるのだ。
リヨンのひとつ星レストランの更に認められていこうとする熱意はすごかった。だが、その実際を取材することはできなかった。
もちろん、この番組では国内でもいくつかの取材をした。
その中で滋賀県にある一日一組しか客を取らないレストランを取材した。厳密に言うと昼夜一組ずつ客を取る。このレストランが興味深かった。食材を厳選する。朝から小さな車を走らせ、肉は飛騨牛、野菜も何軒かに分けている理由を説明しながら、買出しにつき合わせてくれた。
フランスで修行をしたコックさんだった。日本に戻ってきてレストランを始めた。器用ではないと一回に一組しか客を取らないシステムをとった。彼は極めようとしていた。
フランスで習った料理はフランス料理、しかし日本に帰ってくると日本にはフランスにないおいしいものがある。その素材を使いたいと何度も言っていた。クレソンが近くに自生していた。これがおいしい。水が良いのだという。これは使いたいとわざわざ見せに行ってくれた。
しかし、フランス料理は捨てたくない。フォアグラもおいしい。しかし、日本人にはこれが続いたら重い、違うものが食べたくなる。違う料理をはさみたくなる。
奥さんは日本で数少ないソムリエールだった。料理にどんな酒を合わせれば良いか、「ワインばかりが合うわけではない」と、熱く語っていた。
和風の部屋で椅子とテーブル、近くで取れた草花で飾られていた。もてなしの気持ちが伝わってきた。番組ではこのレストランが一番長くなった。行ってみたいと思わせてくれるレストランだった。
その番組が無事完成し、放送も終わってしばらくしてから、仕事を離れて食べに行った。数人でたった一組だけの客となった。ワインと強い酒、そして最後の出てきた日本酒、そのコンビネーションが忘れられない。そして飛騨牛のおいしさも。
聞くと、更に日本の料理にもこだわるようになったという。うどんも自分で打つようになった。ちょっとだけ出てくるうどんが実においしいのだ。前は買っていたパンも自分で焼くようになったという。彼こそ自分で作る料理を面白がっていたのである。
では、「面白がったもの」を面白くするにはどうしたら良いか、これはあまり難しくないと思う。まず人の話が聞けること、そして多少の経験とスキルを得ること、これがあれば大体の物が面白くなる。(高橋正嘉[TBS「時事放談」プロデューサー]
 
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