<テレビ界にある『打つ』という隠語>理不尽打ち、理詰め打ち、質問打ち…って何?
高橋秀樹[放送作家]
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最近はパワハラと言われかねないので、少なくなったが、テレビ界には『打つ』という隠語がある。
『打つ』は即ち打擲(ちょうちゃく)する、実際には、ブッたりはしないが、ブたれるほど衝撃がある説教をすることを言う。大別して2種類。「理不尽打ち」と「理詰め打ち」である。
感情先行の「理不尽打ち」の例を挙げる。
外のロケに行った。出かけるときは晴れていたが、カメラを回す段になって雨が降ってきた。この雨ではロケは中止だ。ADが気を利かせてディレクターに自分が用心に持ってきた傘を差し出した。するとディレクターが烈火のごとくADを打った。
「おまえが傘持ってくるから雨が降るんだよ」
「理詰め打ち」をするディレクターは東大卒に多い。前後左右上下、すべて固めて打つから逃げられない。しかも途中で自分の言葉に酔ってくるから長い。ADには蛇蝎のごとく嫌われる。
「理詰め打ち」の中でも、これはきついと思われる変形が「質問打ち」である。たとえば、取材ディレクターになったばかりの若者が、この「質問打ち」の、チーフディレクターのところに、原稿をチェックしてもらいにやってくる。普通であれば、ここはこうダメだからこう直しなさいと、教えてあげるものだ。ところが、この「質問打ち」のチーフは、決して答えを教えない。
「このナレーションはなんでこうしたんだ?」
「冒頭のシーンはなぜこれから始まるの?」
「この表現で伝わると思ってんの?」
言葉がやさしいうちはまだいい。そのうち…
「バーカ、どうしてこのシーンは、いらないと思ったんだよ!?」
「こんなこと言うと思ってんのか?」
「お前はこれでいいと思ってるんだな?えっ?」
「もう、この仕事やめたほうがいいんじゃないの?」
チーフディレクターの言うことは、いちいち正しい指摘である、と、そばで聞いている僕は思う。僕が一番苦手なディレクターはこう聞くディレクターである。
「この原稿、おもしろい?」
読む前に聞くな。(高橋秀樹[放送作家])
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