<放送作家に決定権はありません>決定権を持っているのはプロデューサーかディレクター

エンタメ・芸能

高橋秀樹[放送作家]

 
学校で習ったり、人の弟子になって放送作家になろうと思う考えが不埒なのだが、断りきれず志望の若者と会うことがある。
「放送作家になって番組が作りたい」などというやつがいると張り倒したくなるが、もし、こいつが偉くなって意趣返しでもされたら怖いとも思うし、帰りの道で刺されてもいけないので、「やりたいのは、どうせ、バラエティなんでしょ。だったら、局に入るか、電通か博報堂か、大きなプロダクションに一番の成績で入りなよ。放送作家で番組なんか作れるわけないでしょ」と、丁寧に説明する。
首都圏の中堅の大学でメディア論の講義を始めて5年になるが、毎年、放送作家とはどういう仕事か、90分かけて説明する。マスコミ志望の学生ばかりではないし、もし才能のあるやつが作家になったりしたら僕の仕事場が荒らされかねないので、思いっきり否定的になって、

「昔、テレビのバラエティ番組が歌ありコントありトークあり踊りありの『テレビショウ』と呼ばれていたころは、放送作家は脚本家以上のステータスを持っており、作家性なんて言葉を使って、プロデューサーと番組内容を議論したものだ、それからテレビからショウが消えると構成作家などと呼ばれて、クイズや、トークや、ゲーム番組に進出して、実はこんなものは台本などいらないが、テレビにはまだ、金があったもんだから、ディレクターが作家を使い、君は考える人、僕は撮る人なんていい加減なことを言って分業化して、テレビをどんどんダメにしていったんだよ」

と、息継ぎなしで丁寧に説明する。
週刊誌のテレビ記者から「今のバラティがつまらないのは、放送作家が牛耳っているからではないのか」と聞かれれば、即座に立ち上がり「ええいそこに直れ。お前は馬鹿か。切り捨ててやる、誰も止めるなよ!」と心の中で逆上してから静かに答える。「放送作家に決定権はありません。決定権を持っているのはプロデューサーか、ディレクターです」と。
タレントや電通や博報堂や編成が持っている場合もありますが(そんな番組は牛のうんこにでもなってガンジス川に流されろ)」と括弧の中は発音せずに答えてから、つい思いついてこんなことも言い添える。「高須や鈴木おさむや、小山薫童が、牛耳っている番組があったら、そんなのクソです」とつい前の勢いが残ってしまったり、数回しか会っていないのに自分を大きく見せようとして、今、売れている作家の名前を連呼して、て、て、て、て(汗)、丁寧に落ち着いて説明する。
ドラマのプロデューサーなど「あのさあ、バラエティだとさあ。ディレクターとプロデューサーと構成作家って、どういう関係で仕事してんのかなあ」などときかれると、めんどくさいなあと思いながらも、将来こいつドラマで売れなくなってバラエティのプロデューサーに回されてくるかもしれないから大事にしとこう、などという計算が働いて次のように言い募る。

「バラエティの場合、プロデューサーはほとんどが、ディレクターのなれの果てです。バラエティのプロデューサーとして人材を育てるということをテレビ局はやってこなかった。バラエティなど誰でもできるという思いが局の上層部にあったからでしょう。そのツケを払わされている民放局はどこなんでしょう」
「そのようなプロデューサー(P)には4種類います。優れている、低能、余計な口出しをする。中途半端。最も有害なのは中途半端です。優れている、低能、余計な口出しは、同等です。低能で何もしないPや余計な口出しをするPの場合、ディレクター以下がPを無視したうえで、良くまとまって、優れた番組になることがあるからです。その確率は優れているPの場合と大して変わらないというのが実感です。違うのは優れたPの場合、尊敬されるという点だけです」
「それから、構成作家と呼ばれる台本を書く職種はおそらくNHKの歌番組にしか生存していません。リサーチャーという職種は分離されてしまったので、今残っているのは、クイズ屋、ナレーション屋、アイディア出し屋、コンセプト屋、会議にぎやかし屋、プロデューサーの精神安定剤などの仕事をやっている作家です」
「一番稼いでいる作家はコンセプト屋ですが、コンセプト屋は電通とそう変わりません」
「アイディア出し屋が、一番放送作家らしい仕事をしています。ただし、この時、優れているのは求めに応じてAからZまで、数多くの選択肢の出せる作家です。よく、「Aしかないよ」などと言われて、アイディア出し屋にコロリと騙されてしまうディレクターがいますが、もっと勉強してください」

バラエティの場合、特殊なのは、ここにタレントが絡んでくることです。「ドラマでもそうだよ」とおっしゃる人もいるかもしれませんが、ドラマの絡み方とはおそらく形態が違うでしょう。
バラエティで番組に絡んでくるタレントが、スタッフが全員、自分よりバカだ、自分より番組のことを考えていない、自分より笑いがわかっていない、などと考えていると最悪です。スタッフに尊敬されないこういうタレントと、番組をやってもうまくいこうはずもありませんから。
 
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