<姑息な罠と罪深き罠>2月29日新型コロナ対策記者会見

社会・メディア

両角敏明[元テレビプロデューサー]

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去る2月27日安倍総理は、3月2日から春休みまで全国一斉に小中高および特別支援学校の臨時休業を要請しました。突然の要請に説明を求める声が噴出、総理は2日後の29日、会見に応じました。この会見をつぶさに見て行くと、おなじみ安倍流テクニックの罠がちりばめられた、これぞ安倍晋三と言うべきものでした。

そもそも総理の「全国一斉休校要請」からして安倍流おなじみの強引なものでした。『全国全ての小学校、中学校、高等学校、特別支援学校について、来週3月2日から春休みまで、臨時休業を行うよう要請する』と、いかにも大決断のように大見得を切りました。

しかし、猛烈な批判の嵐に翌日の国会では『この要請は法的拘束力を有するものではなく、各学校等あるいは地域において柔軟にご判断いただきたい』と大幅トーンダウン。『全国すべて』も『3月2日から春休みまで』も消えました。はじめから「地域で柔軟に」と言っておけば良かったものを、やってる感を出したかったんでしょう。

唐突に派手なことを断言して混乱を招くパターンは、森友、加計から、桜、先日の法解釈変更に続き、またまたやった!という感じです。深刻重大そうに言ったものの、結局グズグズとなるパターンは北方領土交渉や金正恩に自分が会う発言などでおなじみですし、一度言った事を謝罪もせずにコロコロ変えてしまうのも安倍さんあるあるです。

さて総理会見、以降はこの会見における総理発言の信用性を、主に国会答弁と、3月3日BSフジ「プライムニュース」における専門家3名の発言を参考にして、簡単なファクトチェックをしてみます。まずは周到にして狡猾なPCR検査についての発言から。

総理会見発言『かかりつけ医など、身近にいるお医者さんが必要と考える場合には、すべての患者の皆さんがPCR検査を受けることができる十分な検査能力を確保いたします。』

これを聞けば、ご近所のお医者さんでも直接検査機関にPCR検査を出せるようになると受け取れます。テレビでもそう解説している番組もあります。しかし実際はまったく違います。ご近所の医師が要検査と判断してもまずは「帰国者・接触者相談センター」に連絡し、患者はここで紹介を受けてから全国843カ所の「帰国者・接触者外来」を受診し、そこの医師が必要と判断すればPCR検査を受けることができる、というのが事実です。これまでと変わるのは保健所の介在がなくなるルートが生まれるということです。(一部に保健所を通すという報道もあり)

これでは総理の発言は明らかなウソではないかと国会で問われますが、総理は『次のフェーズにおいてはかかりつけ医の先生方にPCR検査ができるようにして行くと申し上げている。今すぐできると私はまったく申し上げていない』と答弁し、議場にはえー?という声が上がります。

[参考]<新型コロナ>瀬戸際2週間満了3/9時点で感染状況は一段深刻化

実はこのくだりの総理会見発言には姑息な罠が仕掛けられていたのです。総理は、この発言の前に検査能力の拡大と新たな検査機器の開発などに触れた上で、『こうした取り組みを総動員することで』という前フリを置いてから『すべてのみなさんがPCR検査を~』と発言しています。

だから様々な取り組みを総動員した後のフェーズで出来る事と言ったのだというご主張なのです。屁理屈はそのとおりですが、明らかにこれは会見を聞いた誰もが誤解するように周到に仕掛けられた罠です。誰に何を理解してもらうための説明だったのでしょうか。

PCR検査能力の向上についてもアヤシイ箇所があります。

総理会見発言『現在2、3時間を要しているウイルスを検出するための作業を15分程度に短縮できる新しい簡易検査機器の開発を進めています』

これを聞いてPCR検査が15分で可能になると受け取るのおそらく間違いです。テレビで専門家は、これはPCR検査全体が15分で可能になるのではなく、ウイルス「検出作業」を15分に短縮し、後に分析などの手順を含めれば全体を40分ほどに短縮できるという話です、と笑いながら説明しています。どうやら総理が話を盛った疑いが・・・。

同様に専門家が苦笑いしていたのが治療薬開発のお話し、

総理会見発言『現在、我が国ではアビガンを含む3つの薬について、観察研究としての患者への投与を既にスタートしています。基礎研究では既に一定の有効性が認められていることから、治療薬の早期開発につなげてまいります。』(筆者要約)

なんだか、すぐにも治療薬が開発されるような口ぶりですが、専門家は、「(その薬が」有効だったという事例が報告されているだけ」「新薬の開発は5年~10年の話」「新コロナは今年だけかもしれないのでメーカーが本気になるか」などと口々に。これも総理が盛りに盛ったお話しのようです。

病院の空きベッド数の話も罠です。

総理会見発言『全国で2000を超える感染症病床がありますが、緊急時には感染症指定医療機関の病床を最大限動員し、5000床を超える病床を確保いたします』

おそらくこの総理発言は聞く者を故意に誤解させる罠です。「感染症病床」とは前室、シャワー、トイレが付き、室外より気圧が低い陰圧制御ができる特殊な病室のことです。専門家によれば、こうした感染症病床をすぐに3000も増やすのはまったく不可能で、大幅に増やしてもオペレーションするスタッフもいないと言うのです。総理が増やすと言うのは「感染症病床」ではなく、単なる「個室」の事としか考えられません。

事実、加藤厚労大臣は安倍総理発言を庇いながらも、『感染症病床は2000床あり、うち空床が1300。それ以外に一般病床が14府県で4000以上ある。1300と4000を足して5000以上ある』と5000という数字合わせの答弁をしました。しかし総理は「感染症指定医療機関の病床を最大限動員」と言っていますから、これは意図的に誤解を狙った罠でしょう。

以上のような罠だらけの総理演説のあと、会見は記者の質問に移ります。最初は幹事社からの代表質問、続いて幹事社以外からNHK、読売を指名し、最後はAP通信から、オリパラを控えクルーズ船対応から得た教訓は?と問われます。これに総理は、『IOCからは、日本の迅速な対応について評価を得ているところであります』と、最後まで質問と回答が噛み合わない安倍流のまま会見は終了したのでした。

会場では10人以上の記者が手を上げ、「まだ質問があります!」という声を背中に浴びながら退場した安倍総理は、ほどなく自邸へ帰って行ったそうです。

まさに安倍流の罠だらけだったこの会見、総理発言は原稿読み上げ、幹事社代表質問の内容は事前通告ありで、一般質問もあらかじめ質問を聞いていたようで総理は原稿に目を落として答えていました。まるで内閣記者会が総理とグルになり、総理に言いたいことだけ言わせて終わったような会見でした。

もし記者たちが矜持を失い、国民が総理と記者の「談合会見」を視せられたのだとすれば、それこそがこの会見の「最も罪深い罠」であったということです。

 

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