<キンコン西野に直接聞いてみた>話題の落選エンブレムから見える「東京五輪」の行方
藤本貴之[東洋大学 教授・博士(学術)/メディア学者]
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白紙撤回となった佐野研二郎氏の五輪エンブレム騒動から半年。仕切り直しとなった五輪エンブレム公募の最終候補作4点が4月8日に発表された。
透明性と国民参加をキーワードに、オープンな公募が提唱された今回。厳しい参加条件を設けた前回のコンペの応募数104件から140倍増となる1万4599件の応募が集まった。
一方で、「オープン」が標榜されつつも、一度でも過去に公開されたデザインは失格となり、応募者が名乗り出ることも禁じられていた。そのため最終候補が発表されるまで、応募者が名乗り出たり、自分のデザインを公表することはなかった。応募状況や動向は唯一、エンブレム委員会のホームページに掲載される公式情報だけであり、ある意味、非常にクローズドなレースとなっていたことも事実。
また、最終候補が発表されたとは言え、その最終候補に問題が発生した場合は、次点以下の作品が繰り上がる。よって、最終決定が確定する4月25日まではやはり、応募作を公開する人はほとんどいないだろう。
筆者も落選応募者の一人だが、筆者の場合、埼玉県鶴ヶ島市で行った「自主予選企画」として市長が代表者となって市民・行政を巻き込んでの応募であるため、やはり勝手な公表はできそうもない。
【参考】鶴ヶ島市「東京五輪公式エンブレム原案」の公募開始で100%誰でも応募が可能に
そんな中、イラストレーターとしても活躍するお笑いコンビ・キングコングの西野亮廣さんが、応募した作品を早々と公開した。その落選した応募作であるが、インターネット上で「最終候補4作品よりも良い!」といった声があがり、俄かに支持を集め、話題となっている。
西野さんのエンブレム案は、オリンピック、パラリンピック共に、東京の伝統工芸品「江戸漆器」の模様をあしらった蝶がベース。1つの胴体と4枚の羽、合計5つのパーツ(5大陸)が協力することで空に飛ぶ様子を表現しているという。
そこで今回、エンブレム公募や話題となっている自身の落選エンブレムについて、西野さんに直接話を聞いた。
(以下、インタビュー)
[藤本貴之・東洋大准教授(以下、藤本)]僕も方々で聞かれていることなのですが、今回は僕が聞かせてください(笑)。最終候補となった4つのエンブレムをどう感じますか?
[西野亮廣・芸人/キングコング(以下、西野)]うーん・・。おそらく国民の皆さんと同じ意見だと思いますが、「悪くもないけど、良くもない。普通でツマンネー」です。・・・まあ、あれだけの人数で選んだら、こうなりますし、予想できていたことだと思います。なので、一矢報いてやろうとは思いました。・・・ギャグです、ギャグ(笑)。
[藤本]僕もいくつかの媒体で話したのですが、「どれが一番良いでしょう?」という質問は、回答が難しいんです。なぜなら五輪のエンブレムというものは、「どのようなデザインであっても、それはそれで受け入れられてしまうモノ」だからです。過去のエンブレム一覧をみれば一目瞭然。良いも悪いも優劣も、そもそも出ないんです。
[西野]正直、エンブレムに関しては「喉元過ぎれば何とやら」というやつで、オリンピックが始まってしまえば、誰も気にしなくなると思います。
[藤本]ましてや、前回のような騒動があったわけですから、「褒められなくても良い、批判さえなければ」ということが強く意識されていたはずです。なおさら「良くも悪くもない」と感じられてしまうものが揃うはずです。というか、揃ってます(笑)。純粋に客観的な判断として。
[西野]ロンドン五輪のエンブレムだって地獄的にダサかったですが、始まっちゃったら、そんなこと話題にならなかったですしね。
[藤本]ところで、4月8日の最終候補発表後、早々と自分の応募作を公開して、急激に「西野すごい」みたいな流れになりましたよね。僕も個人的には西野エンブレムは魅力的だと感じたのですが、その一方で、「五輪エンブレムには採用されづらいだろうな」ということを感じたので、そういったこともニュース記事で解説をしました。
【参考】<最終候補4作品から解説する>五輪エンブレムのデザインに「優劣」など出ない
[西野]審査基準に不満があるなら参加しなければいいだけの話ですから、そこは納得しています。
[藤本]僕としては、やはり細かすぎる規定や多目的な商業利用を前提とした制約は結果として「あたりさわりのないデザイン」ばかりになってしまうと感じています。もちろん、五輪エンブレムですし、単なるデザインコンペではないので、仕方がないとは思いますが、やや残念感があります。特に、近年のエンブレムは同じようなものばかりで、どれも無国籍で面白みがないように思います。
[西野]うーん、残念ですよね。これは、エンブレムの件に限らず、折衷案・・・事なかれ主義は、誰も傷つけずに、誰にも気づかれずに、緩やかな衰退を招き、ジワジワと全員を不幸にするということ。それが分かっていて、「うるせー、バカ!」と外野を一喝する少し強引なリーダーと、「全員で決める」ということが必ずしも明るい未来を引っ張ってきてくれるとは限らない、という僕たちの理解が必要なのだと思いました。・・・偉そうにすみません。これ以上、嫌わないでください。(笑&涙)
[藤本]どころで、西野さんの江戸漆器をモチーフにしたエンブレムですが、評価される一方で、「後出しジャンケンならどうとでもできる」とか「2色しか使ってないからモノクロにした時に活きない」といった否定的な意見もありましたよね。これ、完全に誤爆なんですよね?
[西野]今回公開したエンブレム案はもちろん、応募作です。しかも、「2色しか使ってないからモノクロにした時に活きない」などは理解不能な批判です。そもそもモノクロで作成したデザインでしたから。今回のオリンピック、パラロンピックのエンブレムは2つで一対です。オリンピックとパラリンピック、2つの蝶を並べると、泥にまみれながら大輪の花を咲かせるスポーツ選手のような「蓮の花」になるような遊びを入れています。
[藤本]4月25日に最終決定が発表されますが、あと2週間、五輪エンブレムはどうなってゆくと思いますか?
[西野]エンブレムより、勝負どころは開会式じゃないですかね? ここで、2020年以降に繋がるものを世界に売り込んでおかないと、日本はいよいよヤバイんじゃないですかね? ロンドンの開会式ではビートルズからエリザベス女王まで投入してきわけです。そんな中で、日本はどう戦うのか。そもそも日本の有名人なんて、世界的にみれば1ミリも有名じゃない。芸能事務所が出しゃばって、日本のタレントを出そうもんなら大惨事です。それだけは絶対に防ぎたいですね。今のうちから「自己利益に走るんじゃねーぞ」という空気を作りたいですよね。
(以上、聞き手・藤本貴之 東洋大准教授)
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