<弁護士の選び方>士業適正広告推進協議会・弁護士特別インタビュー

社会・メディア

岡部遼太郎(ITライター)

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訴訟大国アメリカでは、なにかにつけ弁護士が登場する。離婚や転職は言うまでもなく、マクドナルドのコーヒーが熱かったせいで火傷した、という訴訟で300万ドル(4億2000万円)の損害賠償金が支払われた、といった冗談みたいな話は有名だ。

とはいえ、日本でもアメリカには及ばないものの、弁護士が活躍する場面が急増している。従来の日本人であれば「事件・事故」と認識しなかったような案件までもが、弁護士案件の事件となるケースは多い。

これは私たち消費者の権利意識の高まりもあるが、それ以上に、弁護士の増加と多様化によって、「法律の専門家」といった立ち位置から「法律でクライアントを守るサービス業」へと急速に変化していることも影響しているように思う。

実際、SNSや動画共有サイトを見ていると、さまざまな場面に特化した弁護士の広告を最近よく目にするようになった。弁護士も、積極的に広告をうち、集客をしなければいけない時代になってきたのだろう。

SNS時代と呼ばれる今日、弁護士広告は急速に拡大しているが、弁護士による広告集客が許可されたのは、平成12年(2000年)3月24日の「弁護士等の業務広告に関する規程」制定後のことであり、意外にもその歴史は浅い。歴史が浅いからこそ、広告を出す弁護士自身が、これまでなかったような消費者トラブルに巻き込まれるようにもなっている。広告とは、どんな分野でも諸刃の刃であり、弁護士とて例外ではないのだ。

しかも、そもそも弁護士が広告を出すことは良いのか?といった異論まで登場している。もちろん、怪しげな広告と怪しげな手法で怪しげな法律ビジネスをしている弁護士が存在していることもまた事実である。

そんな中、2020年には、弁護士を中心とした士業の広告の在り方についてのルールづくりに取り組む「一般社団法人 士業適正広告推進協議会(士推協)」が発足した。同会は、士業の広告はどうあるべきか、といった点から士業広告を正しい形で積極的に推進しようと取り組む団体だ。

本稿では、前回記事「<「借金全額免除」多発する誇大広告?>士業広告の是非を士業適正広告推進協議会の弁護士に聞く」に引き続き、士推協の代表理事・櫻井光政弁護士、同会顧問を務める深澤諭史弁護士の取材を行った。二回目の今回は、弁護士のオンライン対応の是非や、令和の弁護士の選び方について聞いた。

(以下、インタビュー)

ITライター・岡部遼太郎(以下、岡部):弁護士の選び方は、私たち素人にはまったくわかりません。もちろん、ちょっと検索したぐらいで悪評が出るような弁護士は論外でしょうが、自分の案件に最適な弁護士は誰なのか、今の代理人は自分にあっているのか?どう選べば良いのかわかりません。

士推協顧問・深澤諭史弁護士(以下、深澤弁護士):そうでしょうね。明確な基準もありませんし、そもそも依頼者の状況によって、求められる能力も違うので、何をもってして「有能か」はわかりませんよね。そういう時のために、私は士業広告があると思っています。30年ぐらい前までは、弁護士の広告はなかったので、知り合いに聞くとか、弁護士会に問い合わせるしかなかった。今は広告を自分で検索して調べることができます。この差は大きいです。

士推協代表理事・櫻井光政弁護士(以下、櫻井弁護士):広告によって、さまざまな法律問題が、良い意味でも悪い意味でも、広く知られるようになりました。これは消費者にとってもメリットのひとつです。

深澤弁護士:それに、弁護士が広告を出すと、当然依頼者が増えます。つまり、広告を多く出している弁護士は、それだけ多くの仕事をしていることになるわけで、多くの経験を積むことができるのです。広告が仕事を増やし、それが結果的に弁護士の訓練、教育になっているという機能もあると思います。

岡部:広告の教育機能ですか。意外な視点ですね。

深澤弁護士:弁護士の業界は時代錯誤が多い、非常に遅れた業界であることも現実です。広告そのものへの否定的な意見もまだまだ根強いです。それも弁護士選びの障壁になっていると私は思っていますが・・・。

<直接面談から、オンライン面談へ>

岡部:時代錯誤といえば、オンラインでの面談の是非があると聞きました。

櫻井弁護士:弁護士が依頼を受ける時、最初に直接会って、お互いに顔を合わせる、いわゆる直接面談の義務が必要という考えは根強いです。このオンライン時代に何を言っているのか・・・と驚きます。私はリアルの対面面談を強制したり、そこに過剰なエネルギーを注ぐことには反対です。民事訴訟の裁判手続きもどんどんWeb化が進んでいるのに、依頼を受ける弁護士側が遅れているわけです。それに、クライアント側のニーズにもあっていません。

岡部:具体的には、どういうことが現実にあっていないのですか?

櫻井弁護士:直接面談義務を主張する人たちは「九州の人は九州の弁護士に頼め」と言いたいのかもしれません。しかし、地方の在住者で、さまざまな事情で地元の弁護士に依頼できない人も多いんです。頼める人がいないので、東京の弁護士に依頼しているのに、「直接顔を合わせないと受けられないんだよ」といって断るのは違うと思います。オンライン面談は有効に機能しますよ。

深澤弁護士:直接面談する義務は、債務整理に限っては原則です。しかし、これは本当に時代錯誤だし、実態にあっていません。債務整理よりもよっぽど複雑でコミュニケーションが求められる事件はいくらでもあるのに。

岡部:確かにそうですね。

深澤弁護士:そもそも、債務整理で弁護士を探している人は、お金に困っている、借金で困っている人なのです。そんな状況にある人が、平日の昼間に仕事を休んで、交通費を使って弁護士事務所に行けますか? 直接面談義務は依頼者のことを考えた規制だというけど、結果的に依頼者を困らせているだけです。

<弁護士選びは依頼前より、依頼後>

岡部:弁護士選びは権利だといいつつも、結局は、弁護士の側からその権利を狭めているわけですね。

櫻井弁護士:もちろん、最初に直接顔を合わせることも意味はあるでしょう。しかし、それよりも大切なことは最初ではなく「仕事を受けた後」なんです。仕事を受けた後に、しっかりとコミュニケーションが取れるか、そっちの方が「受ける条件としての直接面談」よりもはるかに重要です。私は弁護士会で苦情担当をしているのですが、苦情の多くが「弁護士と連絡がとれない」です。最初に顔が見られない、ということよりも、お金を払った後に会えない、話が聞けない、連絡が取れないという方が、苦情としてははるかに多いです。逆に「最初に直接会えなかった」という苦情は聞いたことがない。

深澤弁護士:依頼を受けて契約してお金を払うまでは弁護士もペコペコして出てきたけど、お金が払われた途端に塩対応になる・・・という苦情は多いです。

櫻井弁護士:極端な例でいえば、依頼者の中には、一度も自分の代理人弁護士の顔を見たことがない、という人もいます。広告を見て連絡したけど、入金してやり取りが始まると弁護士が出てこない。定型的な処理で済む案件に対して、弁護士が事務所のスタッフに丸投げして、弁護士本人がクライアントに会わないですませるトラブルですね。

岡部:そういう話を聞くと、やっぱり広告での集客には問題がある、ということですか?

櫻井弁護士:いえ、そういう意味ではありません。そういって弁護士トラブルを広告集客のせいにする人は多いのですが全く違います。そういうトラブルが起きる時、悪いのは弁護士の対応であって、広告が悪いのではないのです。そこは分けて考えないといけない。

岡部:広告とかオンラインとか、いろいろと議論はされるものの、結局は弁護士個人の対応の問題なわけですね。

深澤弁護士:実際に依頼を受けてからの対応が何よりも重要です。その意味で、直接面談は「依頼後の重要性」を薄めてしまいます。依頼者が最初に弁護士と直接会って安心してしまうことも、その後の塩対応の原因を作っていると思います。直接面談の原則は、弁護士と依頼者の双方のエネルギーを無駄に浪費していると思います。最初に直接会うということにエネルギーを使うよりも、依頼を受けた後から、こまめに連絡して、フォローしてゆくということにエネルギーを使う方がお互いに幸せになれるはずです。

岡部:そうですね・・・弁護士に依頼してからは、どうしても「先生のペースで、先生主導で」と考えがちです。こちらから督促のようなことをするのはおこがましいというか・・・そういう意識では誰もが持っていると思います。

深澤弁護士:だからこそ、弁護士の側から積極的にフォローをすることが重要です。「こまめに報告する」のは当たり前ですが、何もなかった時にこそ、「何もありませんでした、動きがありませんでした」という報告をするように私は事件処理でこころがけています。「何もなかった」という報告をするだけで、依頼者はすごく喜びますし、安心します。

櫻井弁護士:私たち弁護士は、受ける前ではなく、受けた後のことを考えるべきなのです。直接面談の件などは、キレイ事をいいながら、結局、依頼者の権利を奪っているに過ぎません。

岡部:なるほど、そう聞くとやはりオンライン面談はどんどん普及して欲しいですね。住んでいる場所を気にせずに、適性や実力などで弁護士が選べることは、私たち依頼する側にとっては大きなメリットです。

<弁護士に聞く、弁護士の選び方>

最後に、弁護士の選び方について先生方のアドバイスをお願いします。

深澤弁護士:一般の方が、弁護士の実力を把握するのは相当難しいですね。しかし、難しいながらも、コツはいくつかあります。まず第一に相性があうかどうかです。二人三脚の長い付き合いになるので、この要素は重要です。単に「感じが良い」だけで選んではいけません。第二に宣伝広告。広告は弁護士の中身を知る良い機会です。そもそも広告は作るのも出すのもコストがかかっているので、弁護士も一生懸命作ります。弁護士が一生懸命に作った広告には、その弁護士の実力が如実に現れています。宣伝や広告に掲載された説明がわかりやすいかどうか、などからも実力はチェックできます。もちろん、弁護士のプロフィールを見て、ちゃんと実績があるかどうかも確認してください。そして最後、第三です。事件の「見通し」だけではなく、全体像が説明できる弁護士であるかどうかを確認してください。「私の事件はどうやって進むんですか?」と聞いて、よどみなく説明できるか。事件の全体が把握できる弁護士かどうかがチェックポイントです。

櫻井弁護士:最近は、ネットで検索すれば、その弁護士がどのようなことをやってきた弁護士であるのか、ということがある程度わかりますから、ネット検索はかなり有効な手段です。しかも、弁護士は「人に何かを教える」ことが好きな人が多いです。ブログやSNSに書いた記事もその弁護士の実力の判断材料になるでしょう。それと、いきなり一つの事務所を決め打ちしないで、いくつかの事務所のホームページを見比べることも重要です。自分の事件に詳しいかどうかのチェックです。意外なことに、依頼された後に実はまったく畑違いのケースだったことが発覚することは少なくありません。

(以上、インタビュー)

弁護士が身近になりつつあるが、その一方でどうやって選べば良いかわからないというのが現状だ。筆者も何度か弁護士に依頼したことがあるが、弁護士に直接会い、依頼契約を完了し、着手金を入金した瞬間に「事件は自分の手を離れた」と思って安心してしまったが、その後、連絡もあまりこず、ヤキモキさせられた記憶は多い。

そんな中で、弁護士の効果的な広告利用を促進するだけでなく、オンライン面談を積極的に推進しようとする櫻井・深澤両弁護士は、保守的な弁護士業界の中では、市民の司法アクセスを重視するという消費者目線堅持の未来志向の弁護士なのかもしれない。
しかしながら、両弁護士のような存在が増えることで、弁護士は私たちの生活により身近になり、生活の利便性を高めてくれることだろう。今後の変革に期待したい。

 

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