劇団「東京乾電池」40周年記念本公演「ただの自転車屋」のすばらしきインチキ臭さ

映画・舞台・音楽

高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
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下北沢本多劇場で東京乾電池40周年記念公演「ただの自転車屋」を見た。
もう40周年か、と思うと筆者にもある感慨がある。40周年ということは筆者が乾電池と初めて仕事をしたのはまだ、結成5年にもなっていなかったころだということだ。筆者はフジテレビの昼ベルト番組「笑っている場合ですよ」で、コントを書いた。
出演は柄本明を除く、ベンガル、高田純次、綾田俊樹、小形雄二。紅一点に大橋恵理子。
毎日のニュースを素材にコントを書く。朝、スタジオアルタに行ってネタを選び、一時間ほどで書き上げなければならない。筆者は放送作家になってまだ1年も経っていない頃である。
この仕事は「苦しかった」。書いても書いても、台本通りにやってくれないからだ。それどころが台本のセリフがすべてなくなってしまうことさえあった。それでも書いた。書けなくなったら負けだと思って、勝負するような気持ちでコントを書いた。
「逃げてしまおうか」と思い詰めていたある時、高田純次が筆者のところにやって来てこういった。

「ここのセリフ、こう変えてもいいですか」

なんだか、一気に気持ちが楽になった。役者もセリフを変えるときは悩んでいるんだ。そう思えたからだ、それから少しは筆が進むようになった。
高田純次が土用波三助、ベンガルが柳原正義、綾田俊樹が卒塔婆死人、小形雄二が大埼玉芋五郎、大橋恵理子が本業歌子。キャラクターを固定して本を書くようになってから乾電池はセリフを使ってくれるようになった。それでも6割くらいだったと記憶する。
今回の40周年記念公演の芝居はこうだ。
うだるような夏のある日、脚本家のベンガルと映画監督の綾田俊樹が、脚本の構想を練るためにある離島の温泉旅館にやって来た。
しかし、案内された部屋のエアコンは壊れている。電気屋も兼ねる「ただの自転車屋」の柄本明が、修理を始めている。が、専門家ではない自転車屋にはエアコンが直せない。暑い。
筆者はデブなので、人一倍の暑がりだ。だが本多劇場の空調はきちんと効いていて、汗もかかない。おまけに舞台の暑さが伝わってこない。どうしてだろう。
理由はこうだろう。柄本、ベンガル、綾田以外に、もうひとり舞台にいる男。この男は、映画会社から監視のために送られた男だが、ガタいが良い。しかも黒い背広上下を着ているにもかかわらず、少しも暑がらないのだ。
柄本、ベンガル、綾田が暑がっているのに、男が暑がらないことに、何か含意があるのか。北村想の脚本はそれを書いているのか? と考えてみたが何も思いつかない。
昔の乾電池ななら、劇場自体の空調も切る、と言うような客いじりのギャグをやったかもしれないなあ、と妄想する。
ところで、柄本、ベンガル、綾田は「インチキ臭さ」をきちんと身にまとっているので、何気ない仕草や狙っていないセリフでも笑える。これはすばらしいことだ。
 
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