「障害は個性だ」なんて口が裂けても言えない
小林春彦[コラムニスト]
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「障害は個性だなんて口が裂けても言えない。」
これは、私がかつて自分の書いたもののなかに入れた一節です。紙面であれ映像であれ、マイノリティがメディアにおいて取り上げられるということ。それ自体は社会に理解をもたらすもので悪いことではないと思うのですが、
「障害や見た目は身体的特徴だ」
「ハンディがあっても自分らしく」
と前向きに主張する声がある一方で、
「この『生き辛さ』をそんな個性というような綺麗に片づけないでほしい」
と美談に盛りがちなものに嫌悪を抱く、悩みの渦中にいる当事者が大勢いるのも事実です。どちらかというと、私もこうしたキラキラした取り上げ方には抵抗を感じてしまうタイプです。
人の「見た目」という問題を扱っているという割に、綺麗でピカピカした表紙と綺麗な売り文句。実は今回紹介する『顔ニモマケズ』(文響社)を初めて手にした時、そういったパッケージを見て、「ああ、これも同じ類のものなのでは」と嫌な予感がしました。
ところが、読み終えてみると、こうした第一印象は完全に外れ、私の心の淀みを思い知らされたわけですね。
アルビノ、全身脱毛、顔にキズやアザがある、いわゆる「見た目問題」。今回紹介する年始から話題の『顔ニモマケズ』では、この「見た目問題」を抱える9人の当事者が登場し、ベストセラー作家の水野敬也さんと対話を重ね、それぞれのライフストーリーを語る内容になっています。
水野さんはその9人の体験や考え方から得られた「生きる」ということについての人として普遍的な学びを記しています。そこには、過度な感動秘話もオーバーな描写も無く、コレといったオチもありません。9人の現実が、彼・彼女ら自身の屈託の無い言葉によって淡々と綴られていました。
【参考】<障害者差別解消法って何?>障害者が「配慮する側」にも「配慮される側」にもなる(https://mediagong.jp/?p=19169)
「見た目問題」に限らず、悩みを持つ大多数の人が、人生の上手くいかない理由を分かりやすい何かのせいにしたり、悩むことそのものに悩んで鬱屈していたり、えてして渦中にいるときはこじらせがちです。
しかし、本書を読むと自分は底辺にいても安心して悩んでいいのだということや、抱えた悩みが吹っ切れたら、どれだけ爽やかなことか、と教えてくれるわけです。本書に登場する9人は、そういった意味で、すでに突き抜けた境地に達しているとも言えそうです。
本書は、「見た目問題」の有無に関わらず、ごく普通の人と同じようなメンタリティで生きていることがリアルに感じられるのが、また印象的でした。この9人は、きっと現在も、人間として当然あるはずの負の部分を確実に抱えて生きている。
それは、障害者・健常者を問わず、見た目問題の当事者・非当事者という区分を超えて、必ず人間ならば持っているごく自然なものでしょう。そういったことも感じられるくらい彼・彼女らのライフストーリーが本書だけで完結していないリアリティを感じられるのも心地よい読後感です。
一方で、今まさに何かに悩んでいたり、「見た目」に苦しみ渦中から抜け出せそうにない人の中には、本書を前に「綺麗すぎる」書籍、との先入観から本書に手を伸ばしづらい方もいることも、容易に想像できます。
しかし本書に登場した9人のうち3人の男女は、私も人となりをよく知る人たちで、いかにも彼・彼女らの口から出てきそうなセリフがたくさん出てくることから、本書がウケを狙って創られた本でないことは請け合いです。
ぜひ本書を通じて、ある地点の到達者の境地や「(見た目であるとか)分かりやすいもの」との向き合い方について考えてみてほしいと思うオススメの一冊として紹介したいと思いました。
ところで、最後に、私自身の個人的な話ですが、見た目からは分からない困難を抱えている人々の問題(発達障害や高次脳機能障害など)に取り組む活動家として、本作に全面コラボしたという「見た目問題解決」NPO法人マイフェイス・マイ・スタイル(MFMS)さんとは、7年ほど前からの付き合いがあり、特に代表の外川浩子さんとチーフの外川正行さんにはプライベートでもお世話になってきました。
東京都墨田区のスカイツリー目下を拠点に活動を続けてこられたお二人や支援者の下町ならではの人情に救われてきた人も多いのではないかと思います。
本書は水野さんの方から持ち掛けたコラボ作品とのことですが、売上印税はNPO法人MFMSさんに全額寄付されるとのことです。素晴らしい理想を掲げて設立したものの、資金繰りに苦労し解散していくNPOが多い中で、私も「見た目問題」への長い取り組みを見ていて特に応援したい、と思っています。
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