<テレビに忍び込む「嘘」>箱根駅伝にもニュースにも紅白歌合戦にも「嘘」はある?

社会・メディア

高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
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正月の箱根駅伝を見ていて、「そこにはリアルがある」と感じた藤村正宏氏は『「モノ」を売るな!「体験」を売れ!」(実業之日本社)の著者でエクスペリエンス・マーケティング(通称エクスマ)の創始者なのだそうである。
この人はもちろん、「テレビの人」ではない。その藤村氏が年末年始に熱中して見たテレビ番組として、

「おもしろいのは、スポーツやドキュメンタリー。元旦は実業団駅伝とサッカー天皇杯。2日と3日は、箱根駅伝。NHKスペシャルの再放送やドキュメンタリー。けっこうおもしろい番組をやっています。他のバラエティとかは、まったく見る気がしませんけどね」

と書いている。なぜバラエティを見ないのか。面白く感じないからだそうだ。そしてこう推測する。

「プロが作ったものはおもしろくないって感じるのは、それは本当に自分が表現したいことを表現していないから」

この発言には含意がある。筆者が言葉を補って解説すると次のようになるのではないか。

「プロが作(る、テレビ番組は上手に出来ていて、CGやテロップも親切に付けてあり、飽きさせないように面白いところを選んで編集してある。昔と比べてそのテクニックは何倍も上だ。そこまでしてプロが加工して作)ったものはおもしろくないって感じるのは、(こういう風につくった番組ならきっと見てくれるだろうという打算が透けて見えて)それは本当に自分が表現したいことを表現していない(もしくは表現できない状態にある)から」

まあ、どの仕事でもそうだろうが自分がやりたいことを、我を通して実現することは相当の力業だ。テレビのディレクターでもそれは同じ。
筆者はこれまで100以上の番組に関わってきた。そのうちルーティンワークに陥らず、本当にやりたいと思ってつくった番組は2割くらいだろう。やりたいと思ってつくった番組が悲惨な視聴率だったことだって当然ある。
ただし、思うように視聴率は上がらなくてもそこには実(じつ)があった。藤村氏が面白いテレビ番組に必要だと感じているリアルはあった。
リアルが必要ということを裏側から見れば「ウソがある番組はだめだ」ということだ。
少なくとも、箱根駅伝にはウソがないように思える。アフリカから選手をスカウトしてきて授業料なしの特待生にして走らせるのはウソに近いような気もするが、ルールの範囲内なのだろう。
甲子園の都道府県代表に地元の選手が一人もいないのは、ウソそのもののような気がする。
プロ野球はすっかり視聴率の取れないソフトになってしまったが、一流のプロは皆、大リーグに抜けて行ってしまってプロ野球の“プロ”と言う表現にウソが入ってしまったのではないか。
ニュースにはウソがないはずだが政府が放送に干渉していると聞くと、ウソが入っている気もする。
ドラマは作りごとだから、ウソを楽しむモノだけれど、特定の事務所の俳優ばかり出演しているところにはウソが入り込んではいまいか。
紅白歌合戦はその年にヒット曲を出した人のお祭りのはずなのに明らかにウソだった。
ネットの世界ではステマ(ステルス・マーケティング=記事のふりをして宣伝すること)は、絶対の御法度だが、テレビ番組で、芸能人が番組宣伝をするのはステマというウソには当たらないのか。
バラエティは「ほら、面白くて肩のこらないモノを作りましたから是非見て下さい」とは訴えかけてはくるものの、テクニックという名のウソで番組をこしらえてはいないか。
自民党区議会議員の一般人なりすましや、ヤラセは論外のウソだが、そういうはっきりしたウソ以外にもウソが忍び込んで来ているとすると、これは放っておけない危うい事態である。
最後は、テレビ屋の一人として言うが、テレビ屋は別にウソがやりたいからテレビ屋になったのではない。ウソはやりたくない。そういう意味では自分の心にウソをついて「本当に自分が表現したいこと」以外を、許されるならやりたくはないのである。

There’s No Business Like Show Business.

「ショウほど素敵な商売はない」と思ってテレビ屋になったときは、みんな「絶対にウソなどやりたくない、ウソの味方などするものか」と思っていたはずだ。
 
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