<スタイル・エッジ 島田社長に聞く>AIが切り開く士業・医業の可能性
岡部遼太郎(ITライター)
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弁護士や司法書士、医師などの士業・医業の専門家に特化したコンサルティングファームの株式会社スタイル・エッジ(東京・代表取締役社長 島田雄左)が、業界へのAI導入を積極的に推し進めるために設立したAI戦略室が話題だ。
士業コンサル業界のリーディングカンパニーであるスタイル・エッジ社によるAI戦略室の設置は、士業界に風穴を開けるきっかけになることが期待されている。
同社の島田社長は、士業・医業の世界こそ、AIが最も業務効率化に適した業界であるとも考える。シンギュラリティ(技術的特異点:AIが人間の知能を超える転換点)を目前に控え、知的労働の代表格である士業・医業がどうあるべきか。自身が司法書士という士業からそのキャリアをスタートさせた島田社長だけに、その動向に注目が集まる。
本稿では、スタイル・エッジ社・島田雄左 代表取締役社長にお話を聞いた。
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(以下、インタビュー)
ITライター・岡部遼太郎(以下、岡部): AI事業を推し進めようと思った背景や狙いについてご意見を聞かせてください。
株式会社スタイル・エッジ 代表取締役社長・島田雄左氏(以下、島田氏):2025年に入ってからの半年間ぐらいで、日本のAI環境は急速に進化しました。AI導入や活用に関するクライアントからも問い合わせもすごく増えています。士業という私たちの専門的な業界全体で見ると、まだFAXを使っていたり、ホームページもしっかり準備できていない・・・といったようなケースも珍しくはありません。とはいえ、これからは労働人口も減少する時代です。士業の世界でも、AIで置き換えることで効率化ができるものがあれば、導入したいと考える先生が増えていることも事実です。私たちがそのハブになれると思っています。

(写真:株式会社スタイル・エッジ 代表取締役社長・島田雄左氏)
岡部:士業の世界でも、他の業界同様、仕事が細分化して、これまでよりも忙しくなっているのでしょうか?
島田氏:仕事量は昔に比べて、激増しています。しかし、休む時間だけは変わらない。最終的には、人を増やすか、AI等を活用して業務を効率化するかという選択になっています。
岡部:そう簡単に人は増やせませんから、AIを導入して生産性を上げることはより重要なりそうですね?
島田氏:そうですね。弁護士にしても、医師にしても、AIの導入によって業務効率化ができれば、当然みなさん喜んでくれます。しかし、本当のポイントは、業務が効率化されることで、1人でも多くの相談者様や患者様に向き合うことに繋がり、その結果より良いサービスを受けることのできる環境整備にも繋がる、ということでしょう。今後は、この辺りを中心にしてAIに関して色々取り組んでいきたいと考えています。
岡部:クライアントに対して、AIの活用や導入による成長や効率化を、スタイル・エッジが先頭になって推進されている。一方で、社内に対してもAIの活用の取り組みを積極的に進めていると伺いました。
島田氏:弁護士事務所やクリニックの業務は、労働集約型のビジネスモデルとなっています。AIを提案するにあたって、まずは自分たちでも使ってみる。そこから、「こういうことがAIで出来るんじゃないか」「AIではこれはどうすればよいのか?」といったことを自ら理解しないといけない。このあたりの感覚は、インターネットが登場した時の状況にすごく似ています。今でこそネットを当たり前に使っていますが、登場した当時は、怪しいとか、扱い方がよく分からないとか言われていましたから。
岡部:AIもいずれはそんな感じになるんじゃないかと?
島田氏:今、AIを使いこなせている人も、5年後、10年後にはそれが当たり前になっていくと思います。しかし、これは逆に言えば、今後AIを使えないような人は、もう何の仕事もできなくなると思います。そういったことを踏まえ、弊社では社員全員がAIに対して興味を持てるように、リスキリングの研修受けてもらったり、希望者には有料のチャットGPTを提供等、積極的にAIに投資してきました。
岡部:島田社長が御社のYouTubeチャンネル(@styleedge0619)で「士業や医業がAIに置き換わっても、残る部分は『責任』」とおっしゃられていたのが印象的でした。現在、島田社長はAIをどのように捉えて、スタイル・エッジとして士業支援のビジネスに向かい合っていますか?
島田氏:もともと私は司法書士でした。その意味では士業の人間だったので、生成AIが登場した時は衝撃でした。もう弁護士も司法書士も医師もいらなくなるんじゃないか。そういう恐怖を覚えたのが最初の出会いです。個人的には、ロボットが先に来て、そこで単純作業から奪われると思っていたのですが、意外なことに、知的労働から奪われてしまったわけです。
岡部:自分たちのような仕事が奪われるのかと?
島田氏:はい、その恐怖は感じました。しかし、その一方で、AIは自分自身で責任を持てません。あくまでも人間のパートナーや、私たち自身を補完する立ち位置でしかないんです。そのことに気づき始めると、考え方もどんどん変わりました。例えば、士業や医業は、顧客に対して信頼とか安心などを与えることが本来の提供価値であり、「最終判断は私の責任でやります」という決断は、人間にしかできない部分です。その部分だけは資格者である弁護士や司法書士、医師が担わないといけない。AIが活躍できるのは、そこに至るまでの仕事です。先生方が最終判断をするための判断材料や選択肢の処理に関しては、AIが伴走することで飛躍的に効率化が図れると思っています。
岡部:そういう意味では「AIに仕事が奪われる」というよりは、仕事を一緒にするパートナー、ブレーンみたいな感じでしょうかね?
島田氏:はい、まさにそうです。自分にとって、「AIはどういうものか?」と考えた時、人間の知的労働や専門職の補完的な任務こそ、AIの役割だと今は捉えています。
岡部:島田社長が考えるAIの未来。「何年後にこういう状態になっていてほしいな」など、描いているもの、予見しているものはありますか?
島田氏:2027年から2030年ぐらいには、AGI(Artificial general intelligence:汎用人工知能)が登場する、と言われています。しかしながら、想像しようとしても、想像できないような世界観にはなっているので、個人的にはあんまり考えないようにはしています。
岡部:AIの進化の速度が早過ぎる?
島田氏:先ほどもお話をしたように、数年後には、士業・医業の現場では、
技術的には、AIが相談対応をして、時には方針を提案するといった初期対応まで可能な環境が整っている可能性があります。
そして専門家の先生方は、最後の判断のところこそを担う。そうなれば、専門家は顧客に向き合うことに集中できるようになります。これが私たちのやりたいことでもあります。AIと人が役割分担をすることで、専門家不足や知識格差をなくしていきたいと思っています。
岡部: 士業・医業は、AIに対して積極的な先生方もいれば、そうではない人もまだまだいる、という業界ですよね。そういった業界でも、当然、AIは無視できない存在になりつつあるわけですが、業界全体として、意識の変化などは感じますか?
島田氏:もちろん感じますね。弁護士にしても医師にしても、士業・医業の世界は、扱う情報がすごくセンシティブです。個人情報だったりとか、施術内容だったりとか。しかし、そういう仕事の中で、AIを使うこと自体は、多くの先生方は前向きにはなりつつあるように感じます。少なくとも、AI導入によって、自分の業務を効率したいとはみなさん思い始めているはずです。その一方で、個人情報の取扱いをどうするのか、AIにセンシティブな情報を読み込ませていいのか・・・といった部分は、まだまだ誰も答えを持ってない状態です。その辺りを私たちスタイル・エッジが一緒に考えていければいいな・・・と思っています。
岡部:まさに、「私たちがそのハブになれる」ですね。
島田氏:例えば、スタイル・エッジが作ったシステムを経由すれば個人情報などは勝手にマスキングしてくれるので、取り扱いにおいて先生方が気にすることはありません。そこだけでも、先生方の懸念や心配を軽減させることができます。AI導入で一番高い敷居は、そのあたりですからね。
岡部:対外的にAI導入を売り出していくためにも、社内で積極的にAIの活用を推進しているとおっしゃっていましたが、現状はいかがですか?
島田氏:やはり、スタイル・エッジは社員の平均年齢も若いですし、AI関連については、どの分野の社員であってもものすごく感度が高い。その上でAI戦略室が社内ハブにもなって、色々な事業やプランが持ち上がっている。そんな状態ですね。
岡部:具体的には?
島田:例えば、社内でのAIコンテストなどもやっています。今年で2回目の開催とあり、ChatGPTを含む生成AIの他、すべてのAIを審査対象としました。どの応募も個性豊かで、社内の課題に向き合い、生産性を向上させるために考えられていて、昨年よりも大幅にレベルアップしたプロジェクトの応募が多数ありました。表彰式では事前審査により、「AIプロ活用賞」「技術活用賞」「目標達成賞」「業務貢献賞」「発展可能性賞」の5つの表彰を行い、その後、「最優秀賞」「社長賞」「茶圓賞」「優秀賞」にノミネートされたチームが審査員に向けにプレゼンテーションを行っていただき、その場で最優秀賞が決定しました。賞金総額は215万でした。
岡部:それはさすがにもちベーションが上がりますね。しかも、賞金がすごい金額だな、と(笑)
島田:ただ、このコンテストはお金が重要ではないんです。参加している社員たちも、賞金目当てというよりは、自分のアイデアを提案したい、という熱意の方に比重があると思います。
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(以上、インタビュー)
士業・医業の専門コンサルティングファーム最大手として、これまでもユニークな事業提案で話題を集めてきたスタイル・エッジ社が掲げる、業界へのAI導入。その話題性もさることながら、新しいAI技術が医業・士業の顧客たちの満足度も向上させることを狙うと島田社長は力説する。
AIは今後ますます、あらゆるビジネス、あらゆる業界、そして全ての現場で活用されることは想像に難くない。そんな中で、AI化・AI導入が難しいと考えられてきた士業・医業の分野で早くも多くの実績を出す同社の試みには今後も要注目だろう。
本誌では、今後もAIビジネスやAI導入による業務効率化など、新しい試みをしているユニークな企業、魅力的な実践家をどんどんと取材して紹介していくので期待してほしい。
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