<メディアへの圧力>政府と保守系メディアが国連特別報告者をバッシング

社会・メディア

上出義樹[フリーランス記者/上智大学メディア・ジャーナリズム研究所研究スタッフ]
***
<安倍政権の放送への圧力などを調査した米国の大学教授が会見>
日本の「表現の自由」の現状を調査し、提言する国連の特別報告者デービッド・ケイ氏(米カリフォルニア大教授)が国連人権理事会への報告に先立ち6月2日、「報道の自由」に関するシンポジウムが開かれた上智大学で記者会見し、私も参加した。
ケイ氏は5月末に公表した報告書で、担当閣僚による放送事業者恫喝などメディアへの圧力や、記者クラブ制度の排他性などメディア自体の問題を厳しく指摘。
これに対し、安倍晋三政権や保守系メディアが「多くは伝聞や推測に基づく調査」と猛反撃する中での注目の会見だったが、同氏の冷静な言動に比べ、安倍政権側のヒステリックで理不尽な個人攻撃の構図が私には感じ取れた。
<「ウソをまき散らす」と政府や保守系メディアがバッシング>
ケイ氏は昨年4月に来日して日本政府や報道関係者、市民団体、研究者らへの聞き取り調査などを行い、それを基に今月12日に国連人権理事会で報告、説明する。
その報告書では、情報入手の権利を侵害する特定秘密保護法への懸念や、欧米各国のような独立委員会ではなく政府(総務省)が放送メディアを規制している問題点などと併せ、記者クラブ制度に象徴されるメディア側の排他性や行き過ぎた自己規制などを指摘している。
【参考】<与党幹事長の言論封じ発言>追及の甘い大手メディアが取材規制を加速https://mediagong.jp/?p=22763
政府と一体となってケイ氏をバッシングする産経新聞は、今月2日付「主張」で「嘘をまき散らすのは何者か」との見出しで報告書をやり玉に挙げた。
<苛立ちを隠さない政府首脳と冷静な報告者>
ケイ氏は上智大での記者会見やシンポジウムで、「今回の調査は日本政府の同意を受けたものであり、事実誤認ではなく、あるとすれば政府との解釈の違い」として、問題点の指摘や提言の根拠などを道理に基づき丁寧に説明。私には十分納得できる内容だった。別の国連特別報告者が「共謀罪」法案を批判する書簡を安倍首相あてに送付し、やはり5月末に政府が色をなして反論している。
しかし、菅義偉官房長官が切り捨てるように言う単なる個人の見解ではなく、あくまで国連の理事会から任命された報告者たちである。政府首脳らの個人攻撃は、議論を嫌う大人げない日本政府の苛立ちを逆に浮き上がらせる形になった。
最後に、気が付いたことを一点補足する。ケイ氏が昨年、中間報告の記者会見をした際、同氏が強調したメディア自体の問題を大手メディアはほとんど無視した。今回は3日付の朝日新聞が「記者クラブ制度の排他性」に触れるなど一部の報道に、たとえポーズだとしても、多少の改善が見られたことは歓迎したい。
 
【あわせて読みたい】