NHK「クロ現+ひらがなも書けない若者たち」が描けなかった学習障害
高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事/自閉症スペクトラム学会々員]
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11月2日放送のNHK「クローズアップ現代+ひらがなも書けない若者たち~見過ごされてきた学びの貧困~」は、たいへん時代を捉えたすぐれた特集であった。
筆者はこの番組を当初、発達障害の中の学習障害についての番組だと思ったが、そうではなかった。NHKの公式サイトには次のように番組が紹介してある。
「憲法が保障する『教育を受ける権利』。国は、日本では読み書きできない人はいないとしてきたが、教育現場の声やNHKの取材で、いまの若者の中に小中学校に通うことができなかったため、ひらがなさえ十分に書けない人や簡単な計算ができない人が少なからずいることが明らかになってきた。若者たちが義務教育からこぼれ落ちた背景に何があるのか。教育を受ける機会を得られず、厳しい生活をおくる人々の姿を伝える」
しかし、番組で紹介された1枚のフリップの中に、学習障害(Learning Disability:LD)は隠れていた。NHKが行った「学校に行けなくなった理由」についてのアンケートである。
「一位 いじめ・本人の障害 101件
二位 親の病気 71件
三位 親の無理解・虐待 各67件
四位 貧困 51件
家庭環境が大きく影響」
というフリップだ。
「一位 いじめ・本人の障害 101件」で、いじめと本人の障害を同じ項目にした理由はよく分からない。もちろん、「本人の障害」の中には明らかに学習障害者が含まれている。そして、いじめに合う側にも学習障害者は含まれている。
「三位 親の無理解・虐待 各67件」に関しては「各67件」と表記している理由が分からない。あわせれば134件ということなのだろうか。それはさておき、「親の無理解・虐待」発生要因の中にも学習障害は含まれている。
【参考】NHK大型企画「発達障害プロジェクト」は当事者が待ち望んだ番組だ
発達障害には自閉症スペクトラム、注意欠如多動性障害、学習障害、吃音症が含まれているとされる。そのうち学習障害は「読み取り障害(ディスレクシア)」「計算障害(ディスカルキュリア)」「書き取り障害(ディスグラフィア)」などがある。これは当事者のがんばり不足などでは決してなく、障害なのである。
こういう障害を家族が見逃すと、「親の無理解・虐待」に繋がるのは容易に想像できる。もちろん、貧困でなくても、親が高学歴であっても、学習障害は発生する。
高学歴の親は自分の子どもが学習障害であることをかたくなに認めない人もいる。認めてあげれば(これを受容と言う)当事者は楽になるという研究結果もある。ハリウッド俳優トム・クルーズは読み取り障害(ディスレクシア)であると公表している。脚本は録音された音声を聞いて覚えるという。
本番組は短い放送時間の中で「見過ごされてきた『学びの貧困』」に特化したのは大変分かりやすかった。しかし『学びの貧困』には、番組では触れられていない学習障害も潜んでいることを改めて理解しておきたい。
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