<ニュースの言葉は難しい>故意・改ざん・捏造・不備・過誤・客船…ニュースの言葉の使い方

社会・メディア

藤沢隆[テレビディレクター/プロデューサー]

一連のSTAP細胞騒動、先日ようやく小保方さんも論文の撤回に同意しました。この翻意は近く明らかになる理化学研究所の懲戒処分との関係があるんでしょうか。

理化学研究所における研究者に対する懲罰規定では「故意(悪意)」でなければ懲罰の対象にならないのだとか。私は日本語として「故意」と「悪意」は別の意味と考えておりましたが、刑法で故意とは罪を犯す意思(刑法38条1項)のことなんだそうで、ならば悪意と同じ意味になりますね。

また民法では「故意」は結果がわかっていながら為した行為などを指すようです。ようするに、知らずにではなく、知っていながらやった行為ですから「悪意」となるんですかね。そう言えば我々がよく使う「善意の第三者」って言う時の「善意」は「悪意」の逆で、何も知らない第三者って意味でしたね。

小保方さんは画像の取り扱いにミスがあったことは認めているのですから、「故意」かどうかが問題のはずですが、理研の調査委員会は、小保方さんが画像データなどの『 「改ざん」と「捏造」をした』と結論づけています。

「改ざん」とは、

『字句などを改めなおすこと。多く不当に改める場合に用いられる。』(広辞苑第六版)
『(悪用する目的で)文面を故意に書き換えること。』(名鏡国語辞典第二版)

とありますから、明らかに故意ということを示す言葉です。
「捏造」とは、

『事実でない事を事実のようにこしらえること。』(広辞苑第六版)
『実際にはない事柄を事実であるかのようにつくり上げること。でっちあげること。』(名鏡国語辞典第二版)

とあるので、こちらも故意ですね。理研の調査委員会の『 「改ざん」と「捏造」』という判断は小保方さんの行為は故意=悪意で完全にアウトであると示しています。
しかし、です。後に会見した論文の共著者であり小保方さんの上司であった笹井芳樹さんは、3時間20分におよぶ長時間の会見中一度として「改ざん」と「捏造」とは言いませんでした。いくつかの言葉を使いましたが、小保方さんの行為を結局は「不備」と「過誤」と表現したのです。
「不備」とは、

『そなわらないこと。十分にととのわないこと。』(広辞苑第六版)
『必要なものが十分に備わっていないこと。』(名鏡国語辞典第二版)

「過誤」とは、

『あやまち。あやまり。やり損じ。』(広辞苑第六版)
『あやまち。過失。』(名鏡国語辞典第二版)

どうやら「不備」と「過誤」なら「故意」とはなりません。ですから、理研の発生・再生科学総合研究センター副センター長である笹井氏は会見中終始「故意ではない」と発言しているように受け取れます。副センター長はとても高位のポジションであり、その副センター長が「故意」と認めないものを理研の調査委員会は故意(悪意)と認めているという図式です。
そうした図式の中で、理研はどういう処分を下すのか、もしかして小保方さんは無罪放免あるいはごく軽い処分なのか、いやいや“故意”を認めない笹井氏もろとも重大な処分となるのか・・・。そろそろ出そうな理研の処分ですが、そんなことをちょっと気にしながらニュースを待ちます。
ニュースに関する言葉で、どうでもいいようなことですが、勝手ひっかかっていることがありました。韓国で沈没したセウォル号です。日本のマスコミは新聞もテレビもほとんどが「旅客船」セウォル号、あるいは「客船」セウォル号と表記します。
元来がフェリーであり、今回も多くの貨物を積み過積載や荷崩れなどが問題視されている船なのになぜ「貨客船」もしくは「大型フェリー」と表記しないのかと思ったのですが、ちゃんと理由がありました。
フェリーであろうが貨物がメインの船であろうが12~13人以上の旅客を乗せることのできる船は法律上すべて「客船」なのだそうです。旅客の命をあずかるだけの設備や対応を法的に求めるという安全思想からのことだそうです。
そういう意味ではセウォル号は客船ではなかったのかもしれませんね。
 
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