<アニメ「銀河鉄道の夜」の音楽>胎児がお母さんのお腹の中で聞いている心臓の音を列車の音に
岩崎未都里[ブロガー]
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映画は絵と音と時間で構成される総合芸術なので、音はとても重要な役割を持ってます。
幼少期に両親と観た「アマデウス(ミロス・フォアマン監督・1984)」の音楽が心地よかったことや、「トップガン(トニー・スコット監督・1986)」の音響効果トムキャットのジェットエンジン音のサラウンドなど、音楽と音響は異なる役割を持ち、相互に補完しあって一つの世界観を構成しているわけです。
今でも思い出すのは小学生の頃に映画館で見たアニメ「銀河鉄道の夜(杉井ギサブロー監督・1985)」。
暗闇に響く独特の音響効果が不気味でとても怖かった・・・という記憶(子供でしたので)。後に、TV放映された時に、その美しい音楽と音響の完璧な構成に感動しました。すっかり「銀河鉄道の夜」にハマッてしまい音楽と音響のパーフェクトなハーモニーが心地よく、ビデオテープが擦り切れるほど繰り返し流し続けました。(リアルにVHSテープが伸びて買い直すこと2回・・・。DVDに感謝)
もう一度、映画館のサウンドシステムと大型スクリーンで観たいと思っていたところ、今年の6月7日、「池袋シネマチ祭」の特別企画に池袋HUMAXシネマズで上映する情報を知り、チケットをゲット。念願のスクリーン上映の「銀河鉄道の夜」を鑑賞するチャンスを得ました。
当日、劇場はアニメーション業界関係者やアニメーターを目指す学生でほぼ満席。
上映が始まり、音だけでも絵が浮かぶほど観たせいなのか、心地よさに私はウッカリ鉄道のシーンで数分転寝をしてしまいました。上映後、余韻に浸りつつ監督の杉井ギサブロー氏と同じくアニメーション映画監督・細田守氏のスペシャルトーク。
「『銀河鉄道の夜』は登場人物が喜怒哀楽に乏しい猫のキャラクターゆえに、ジョバンニもカムパネルラも何を考えているか本当に分からない。でも、だからこそ何を考えているのかを考えさせてくれる効果がある。」
と、杉井監督。ちなみに、強烈に宮沢賢治に惹かれていたのは、音響ディレクター兼プロデューの故・田代敦巳さんだったことを語られました。
杉井さんへ「銀河鉄道の夜」のアニメ化をしないか、という話を旅先に持ってきたことから宮沢賢治ワールドのアニメーション化始まったわけです。杉井さんはそれまで、賢治という人にとても偏見を持っていて、「小学校の頃の『雨にも負けず』という詩は僕には遠いな」と感じていたものの『銀河鉄道の夜』をつくることによって徹底的に賢治に近づいてみて、誤解していたことが分かったそうです。
続いて観客から集めた質問用紙からの杉井さんへのQ&Aコーナー。ここでは私が書いた、
「銀河鉄道の車内の列車音のSEの音源は何ですか?」
という質問が読まれました。
田代敦巳プロデューサーが、柏原満さんという(サザエさんのタラちゃんの足音などで有名な)SEの効果音を作っている方に、
「これは宇宙そのものが生命のありどころというコンセプトなので、胎児がお母さんのおなかの中にいるときに聞いている心臓の音を列車の音にしてくれ」
と依頼したそうです。なるほど、鉄道のシーンで睡魔に襲われたのですが、心音と言われて納得してしまいました。 そして、映画全体の音響と音楽をコントロールしているのは音響ディレクターの田代さん。音楽担当の細野晴臣さんを選んだのは田代さんのセンスではないかと思うのです。
杉井さんは音に関しては田代さんに全幅の信頼を置いていて、細野さんとの打ち合わせの時に、
「監督、これはどういう傾向の音楽を作ればいいでしょうか?」
と聞かれて、ひと言、
「揺れてください」
と言っただけ。
『生命の根源は物理的に揺れること、白と黒、生と死、の間を揺れること』
それを伝えただけであのサウンドトラックができたそうです。そういえば、細野さんのサウンドトラックCDジャケットも白と黒の見飽きない普遍的デザインです。エスペラント語(世界共通言語)で映画題名が表記されています。これは<生命の根源は物理的に揺れること、白と黒、生と死、の間を揺れること>を文字と線で表したモノ。
音だけで心象風景を描き、また文字と線で視覚的にも音を表されたことに気づいて、田代敦巳さんとはとんでもないパイオニアだったのだなと、「銀河鉄道の夜」には何度も何度も驚かされます。 まさに「ここより始まる」でした。
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