<TPPが日本固有の文化を破壊する>TPPの正当化は「芸能人の降板」を「卒業」と言うのと同じ「まやかし」

政治経済

保科省吾[コラムニスト]
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2014年10月23日付「朝日新聞」朝刊に、ラルフ・ネーダー(アメリカの弁護士/社会運動家)氏と、日本消費者連盟共同代表が「TPPは、消費者への深刻な脅威だ」と題する一文を載せている。要旨は以下の様なものである。

  • 安心・安全な食べ物、財産を守る銀行・保険サービス、手頃な価格の医薬品及び医療。インターネットと個人情報の保護、自然環境といった、不満なところはあるとはいえ、現在の日本人が享受している程度のものさえ脅威にさらされる。
  • 投資に関する、投資家対国家間の紛争において、紛争解決条項であるISDS条項が批准されれば、アメリカの投資家に対し国家が賠償するという国の主権を侵すような事態が起こりえる。
  •  医薬品の特許の範囲が拡張し、アメリカ企業の独占が進む。

以上のTPP脅威論に、筆者は諸手を上げて賛成する。今回は上述の視点とは違う観点からTPP反対論を述べてみたい。
安倍政権が、つまるところ、アメリカと結ぼうとしているTPPはかつて、環太平洋戦略的経済連携協定(Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement)と訳されていた。語義通りである。
どこの戦略かというと、もちろんアメリカの戦略である。どんな戦略かというと端的に言いえば、世界経済のアメリカン・ルール化である。「世界の皆さんアメリカに都合のいいルールに従って貿易をやりましょう」ということである。

「TPPは、始まりに過ぎず、これを足がかりにして、アメリカは世界経済の征服を狙うのである」

という人さえいる。TPPで、アメリカにとってもっとも経済的な脅威である中国を封じ込めようとい狙いも透けて見える。かつて、戦略的経済連携協定という名だった「略称TPP」は、途中からTrans-Pacific Partnership、つまり単なる互恵の許定だとして環太平洋経済連携協定などの名が振られることになった。
もちろん、これは「ごまかし」である。
「芸能人の降板」を「卒業」というような「まやかし」である。かつては、これを輸出工業対農業に矮小化して、輸出できなくなったら日本は滅びるなどのおどかしも行われていた。
「ごまかし」と「まやかし」と「おどかし」がTPPなのである。
ラルフや田坂興亜氏(日本消費者連盟共同代表)が指摘するような事態が起こると、その次にやってくるのは日本固有の文化の崩壊である。農業は「富裕層向け」の付加価値の高いものばかり作れば、アメリカに十分対抗できるというTPP賛成派の論であるが、そうなれば日本には満々と水をたたえた田んぼが無くなる。
美しい千枚田・棚田が消える。これが文化の崩壊でなくしてなんだというのか、山の上に住むたった一人のお年寄りのために手紙を運ぶ郵便局員がいなくなる。村が崩壊して祭りが消える。盆踊りが無くなる。地の店がファストフードに取って代わられる。小分けでは豆腐は売ってくれなくなる。
「もう、そんな文化は崩れ始めている」と思う人も多いだろう。でも、今はかろうじてこれを支えているところだけれど、なんとか支えようと思う心根、それが、日本人の文化なのではないかと私は思う。
最後に、佐賀県の農民作家・山下惣一さんの言葉を引く。

「俺は、金持ちに食わせるために百姓になったんじゃない」

 
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