<外食産業で食品偽装が発覚する理由>千原せいじ(千原兄弟)は「地鶏とブロイラー」を瞬時に指摘した

デジタル・IT

藤本貴之[東洋大学 准教授・博士(学術)]
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中国での食品の杜撰な管理問題が続々と表面化する中、中国当局のチェックが厳しくなっているとは言え、私たち消費者の中国食材への不信感はまったく拭いきれない。
我が国においても、昨年6月以来、食品偽装、メニュー偽装事件の表面化が後を絶たない。最近でも、9月に発覚した大手しゃぶしゃぶチェーンの「木曽路」において安価な和牛が銘柄牛と偽って販売されていた事件も記憶に新しい。
事件の現場が、有名ホテル、一流とされるレストランや大手有名店などであることも多く、「これまで消費者は何を食べさせられていたのか?」と疑心暗鬼になってしまう消費者も多いはずだ。「調理してしまえば素人に食材は分からない」「お腹に入れば何でも一緒」といった感覚が作り手、提供元に側にあったのではないか、と考えると、もう外食産業はどこも信用できなくなってしまう。
しかし、こういった問題は、おそらく「たまたまやってしまったたった1回の過ち」が発覚したわけではないだろう。
確かに、「ブラックタイガーと車エビ」「冷凍魚と鮮魚」「外国産牛肉と国産牛」…など、多くの消費者にとっては、これらの違いを調理後に瞬時に見分けることは至難の技だ。味も見た目も全然違う「芝えびと伊勢エビ」だって調理してしまえば判別できる人は多くないはずだ。
このような分かりづらい食品偽装は、これまで恒常的になされていたということは想像に難くない。むしろ「今になってようやく発覚」と考える方が自然だ。つまり、これまでは「発覚」を免れてきたに過ぎないというわけだ。
料理の楽しみとは、味だけではなく、気分や見た目も大きな要因となる。特に、外食の楽しむ上で、「高級食材、安全な食材を使った料理を食べている」という気分は極めて重要だ。しかし、多くの消費者にとっては、その期待や想いを満喫するためには、提供者・調理者を信じるしかないのが現実だ。
つまり、食品偽装をする企業とは、これまで、見分けの難しい食材で偽装をすることで、消費者の期待と想いをも欺いてきたのである。その罪は重い。
以前、とあるテレビ番組でこんなシーンを見たことがある。
お笑い芸人・千原せいじ(千原兄弟)が、南アフリカを訪問した際、そこで供された「現地の地鶏」を食した瞬間に、「なんや!地鶏ちゃうやん!ブロイラーやん!」と一蹴した。国や事情も違う土地でのこと、その時はそのまま笑い話として終わったが、これが日本国内であれば一大事だ。
千原せいじの舌や感覚を信じるとすれば、偽装された食材を口にした瞬間に「違和感」を感じることができる人は決して少なくない。ただ、これまでは、その事実を個人が気軽に発信したり告発したり、共有する手段がなかっただけに過ぎない。
しかし、それが近年、SNSなどの個人による情報発信メディアが普及したことで、個人でも気軽に不特定多数に情報を発信し、共有し、場合によっては、瞬時に世界中に拡散してしまうようになった。その結果、これまでは発覚して来なかった食品偽装やメニュー偽装、あるいはサービスの不備や内部告発に至るまで、急速に発覚する土壌が出来上がっている。
個々に分断されている消費者個人では難しい(あるいは自信のない)食品への懐疑でも、SNSを使うことで、それを告発し、あるいは検証することができてしまうのだ。
世界人口の4分の1。17億3千万人。
これは世界のSNSのユーザーアカウントの数だ。これまで企業の情報を信じるしかなく、ある意味、消費に対して「無力」であった消費者のうち、これだけの数が、自らの意志で情報発信し、告発し、あるいはそれを検証する術を持っている。
食品に限った話しではない。消費者にサービスや商品を提供する全ての企業と店舗は改めてこの事実を噛み締めなければならない。
 
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