<クイズ化するテレビ>見る人に休む間もないほどの大量の質問をする日本のテレビは全てクイズ番組になった?

社会・メディア

高橋秀樹[放送作家]
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『クイズ化するテレビ(青弓社)』の筆頭著者・黄菊英の祖国、韓国ではテレビは「バカの箱」と、呼ばれているそうだ。
テレビばっかり見ていると、バカになるから親はテレビの前から子供を引き離そうとするそうだ。何年か前の日本とそっくりだ。それでも本書の著者はこの「バカの箱」が大好きだった。
この状態は昔の日本とおんなじだ。評論家に「一億総白痴化」と言われても、テレビが好きで好きでたまらなくて、自分で、テレビを作りたくて、テレビマンやウーマンになった人たちが今のテレビの礎を作ってきた。
『クイズ化するテレビ』の著者は、「バカの箱」が好きなまま、日本にやってきて早稲田大学でメディアの研究者になるべく修士課程に入った。ところが日本で見る「バカの箱」は著者に韓国で味わったような癒やし、長く見ていると起きてくる気だるさや、焦燥感を与えてくれない。
なぜか? 日本のテレビは見る人に休む間もないほどの大量のいろんな質問をしてくるからだ。まず、クイズ番組が多い。そこまでは誰でも気づくだろう。しかし、それだけではない。
まるで、言葉を覚えたての子供のように、なぜ? なんで? なにが? どうして? どんなふうに? どうなる? いくつ? いくら?…などなど。そんなに質問されては逃げ出したくなるのも道理だ。こうした日本のテレビを「クイズ化」というキーワードで斬ったのは『クイズ化するテレビ』の著者の独創だ。
『クイズ化するテレビ』で展開される日本のテレビの「クイズ化」とはこうだ。
ニュース番組のクイズ化は「めくりフリップ」である。
みのもんたが「めくり」の元祖ということには「事実か」と疑義を呈しているが、その疑義は図星である。めくり誕生の時、僕は既にテレビで働いていたが。貼れてしかも簡単にはがせるスプレーのりの登場と、めくりの登場は同じ時期。『思いっきりテレビ』より早い。それまでは引き抜きという細工物でめくりと同じ効果を狙っていた。
ランキング番組もクイズだ。CM前の引っぱりもクイズだ。番組予告もクイズだ。得点と結果を先に明かさないスポーツニュースもクイズだ。旅番組だって、どっちの旅館が良いか選べなんていってくる。
「わかりますか? わかりますか? わかりますか?」これは『クイズ化するテレビ』の著者に投げかけられる声だ
「聞くな! 聞くな! 聞くな!」これは本原稿著者の叫びである。
かつて、バラエティショウこそテレビの華だと思っていた筆者は、「クイズ番組撲滅運動」を真面目にやろうと考えたことがあるが、それを今も思っているなんて言うのは、既にいくつかのクイズ番組の構成者となってしまった過去を持っているとなっては、天に唾する事になるのだろうか。
『クイズ化するテレビ』は修士論文がベースだそうだが、その気付きは鋭い。ところで、ナゼ、教授共は単著としてこれを発表させてあげないのだろうか。単著ならもっと大きな著者の業績となるはずだ。しかも添えられている長谷正人・早大教授と、社会学者・太田省一氏の原稿はなくても良いようなシロモノであるのに。
 
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