<ファストファッションが終わる?>低価格重視から「クオリティ」あるアッパーミドルな価格帯へシフトするアパレル市場

社会・メディア

ファッション業界は大きな変革期に来ていると言われる。
ユニクロのような安価でも実用に堪えうるカジュアルウェアに続き、欧米のファスト・ファッションの日本への流入が「いわゆるおしゃれ」に関してまで「格安」を波及させ、ロープライス化に歯止めが効かない。1000円未満の「被服」というにはおこがましいようなシャツやスカートといった「おしゃれアイテム」も珍しくない。
しかしながら、そんなファスト・ファッションの市場も近年、大きなな変化が起きている。ファスト・ファッションを支えていたはずの109系などを中心としたヤング層を対象にした低価格な「おしゃれ市場」が急激に冷え込んでいるのだ。『egg』『小悪魔ageha』といったいわゆる「ギャル雑誌」が2014年に入り、相次いで休刊していることも記憶に新しい。
そんな中、揺り戻し効果なのか、国内では、安価なファスト・ファッションではないアッパーミドルな価格帯のアパレルが好調だ。ターゲットを30代以上のOL層に引き上げ、衣料品であれば1アイテム1万円から2万円。バッグ類であれば、3万円から4万円と言った価格帯である。
1アイテム1000円、2000円といった相場のファスト・ファション感覚でみれば、ずいぶんと高額であるように感じるが、いわゆる「ラグジュアリー」や「ハイブランド」と比べれば、本来は「カジュアルブランド」の範囲内だ。日本にファスト・ファッションが定着したこの数年で、私たちのファッションに対する金銭感覚が大幅に低下したことの表れなのかもしれない。
それでも、一般的な女性OL層にとって、4万円前後というバッグは必ずしも安い買い物ではない。そのため、そういったアイテムには「ファッション性」と「実用性」の両方が求められるのだという。つまり、せっかくの「プチ贅沢品」を仕事でもおしゃれでも利用したい、というわけだ。
この傾向は、ここ2、3年の国内のアパレル業界における大きな潮流の一つとなっている。既に「安かろう、悪かろう」の値下げ競争から離脱し、ターゲットとする対象年齢を引き上げ、クオリティ重視のファッションビジネスへとシフトしているブランドは少なくない。
アメリカ・ロサンゼルス発のセレクトショップとして2009年に日本に上陸し、若い女性を対象に大ムーヴメントを引き起こした「kitson(キットソン)」のプロデューサーとしてガールズファッションを牽引した椿谷真理子氏もそんな中心にいる人物の一人だ。
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一昨年の2012年にkitson Japan社を退社した椿谷氏は、新たに30代以上の「大人の女性」を対象とした、単価を4万円前後に設定したバッグブランド「Rilcreed(リルクリード)」を立ち上げた。「kitson」と大きなロゴの入った若者向けトートバッグで一世を風靡したことを考えると180度以上の方向転換とも言える。国内では既に、主要百貨店で販売をしているが、この9月7日に中国・香港でも旗艦店をオープンさせた。(http://www.rilcreed.jp
椿谷氏に変革期にある現在の女性ファッション市場について聞いた。

 「kitson時代、様々な手段を駆使してブランドの知名度を上げ、販拡をしてきました。しかし、結果的に、それがアパレルブランドとして成功に繋がるか、と言われればYESとは言えません。やはりブームに依存したアパレルは、極めて短い時間でディスカウントやロープライス化が進んでしまい、結果的に収益性もブランド力も低下して、それが下げ止まらなくなってしまうからです。そのあたりが評価の定まったラグジュアリーブランドと一般ブランドの大き違いです。」
「では自分たちがラグジュアリーな高級ブランドを作れば良い・・・というわけにも行きません。多くのハイブランドが、50年、100年という歴史を刻んで今のレベルになっているわけですから、付け焼き刃でラグジュアリーは作れません。だからこそ、私たちは『価格に見合う良質なクオリティ』に徹底的にこだわったブランドを作ったのです。もちろんコストは高くなりますが、安定した評価としかるべき顧客をつかむための信頼を作るためには不可欠なことです。」
「それはリルクリードの初の旗艦店を香港に出した、ということにも繋がっています。香港など、日本と同じ程度の経済感覚を持つようになっているアジア地域では『いかにもラグジュアリーな志向』は必ずしも高くはありません。なぜなら「成金趣味」のように映ることを嫌がり、敬遠する傾向があるからです。もちろん、そうそう気軽に購入できる金額でもありませんから。だからこそ、メインド・イン・ジャパンであったり、良質な素材と職人を使った名実共『アッパーミドル』なアイテムが受け入れられる土壌があります。大きな市場を持つ中国だからこそ、このターゲットは大きなビジネスチャンスであると考えています。」

現在、若者向けやロープライス路線を進んでいる多くのブランドが、この1年で急速な方向転換を始めている。国内のアパレル産業は、水面下で今、まさに急激な勢いで大きな変革を起こしているのだ。
 
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