<時代劇は滅びるのか?>藤枝梅安の主役・岸谷五朗は時代劇の芝居ができない?

映画・舞台・音楽

高橋秀樹[放送作家]
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春日太一氏の『なぜ時代劇は滅びるのか』(集英社新書)は、滅び行く時代劇を「自分で介錯したい」と述べる、時代劇への愛に満ちてしかも、その現状を冷徹な目で見つめた好書である。
同書に書かれた「時代劇衰退への指摘」はみな的を射ている。

  • 映画での時代劇の危機
  • テレビでの時代劇の危機
  • 京都での時代劇制作の危機
  • 表現手段としての時代劇の危機

これらをごちゃ混ぜにして語ってはいけないという筆者の悲鳴。
「役者の不在」について、著者は『仕掛人 藤枝梅安』の主役である岸谷五朗の芝居を「不向き」と指摘する。自然体の演技が流行っているが、それは現代劇のものでよく、その演技には工夫がないとする。その筆は鋭い。
「脚本家の不在」。時代劇を書ける脚本家がいなくなった。私は必ずしも「いなくなった」とは言い切れないものの、時代劇の注文が来なくなったので、書ける作家が離れていったのではないかとは思う。確かに、現代劇の作家に時代劇を書かせると、脚本が説明セリフばかりになってしまうという指摘は、頷ける。
今の脚本家は、「長谷川伸全集」も読んでいないし、書棚に「三田村鳶魚全集」もないのではないか。これらは時代劇を書くときの基礎文献である。
さて、私は浅草軽演劇の復興を目論んでいるが、軽演劇はすべて時代劇をベースにしていた。つまり、時代劇が無くなっては、軽演劇はひとたまりもない。
では、時代劇は滅びるのか。
ここは「滅びない」と答えておきたい。なぜなら、日本を舞台にファンタジーをやるときには、時代劇が、一番やりやすいからである。そのためには、殺陣、美術、結髪、そういった技術はなんとしてでも保存しておかねばならない。
 
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