都知事の高額出張費は「わかりやすいところを叩く」ネット世論の格好のターゲット[茂木健一郎]

社会・メディア

茂木健一郎[脳科学者]
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舛添要一都知事の外国出張費が高い、ということが話題になっている。「往復がファーストクラスで、滞在先がスイート」ということらしい。この件について、率直な感想を述べたい。
まず、一般的に言えば、ファーストクラスやスイートである必要があるのか、と言えば、ないような気もする。しかし、都知事の職分について(来客対応など)はわからないところもあるので、断定することは避けたい。
私が気になるのは、特に航空券はひょっとしたら正規料金を支払っているのではないかということで、旅行会社や航空会社にとってはありがたいお客なのだろう。もし、規定か何かで、ディスカウントチケットを使えない、というような事情があるのだとしたら、それはもったいない。
舛添さんの出張費が話題になり問題とされることだが、最近のメディア及びネットの「わかりやすいところを叩く」という傾向がそこに見られるような気がしてならない。予算が効率的に使われているか、という問題ならば、もっと大きな、目に見えないことがあるはずだ。
航空券のクラスや、滞在するホテルの部屋代などは、認知的にわかりやすいから、バッシングの対象になりやすい。一方で、予算の使い方で、その分析により専門的な知識を必要とし、内情を精査しなければわからないこともあるはずだ。
ここに、先日問題にした「報道の自由」の深い意味があると思う。「ネット世論」は刹那的である。「高額の出張費」のような種があれば、すぐに炎上する。しかし、ネット世論自体には、予算の効率のより深い、構造的な問題を明らかにする力はない。
【参考】「報道の自由」の低下は日本が発展途上国に戻りつつある証か?
出張費の是非よりも、より本質的な東京都の財政上の問題を論じるのは、もっと時間がかかるし、手間もかかる。そのあたりの精査を、プロのジャーナリストがやるということが、公益にかなうだろう。
また、今回の出張費のことや、先日の韓国人学校の敷地問題のように、論争的視点の情報が出てくるときには、その背後に、何らかの政治的意図がある、と考えるのが、情報リテラシーの一部であると、私は思う。
【参考】<熊本地震で民進党ツイッターが炎上>「中傷ツイートは職員の責任」理論は炎上が加速するだけ
日本の世論、とりわけネット世論は、政治絡みの情報の提示に対して、時にその反応がナイーブであると感じることがある。その情報が論争化することで利益を得る方は誰か。そのあたりの推理力も、リテラシーの一部であるはずだ。
以上の論点を踏まえた上でも、舛添さんの出張費は確かに高いかな、とは思う。飛行機はビジネスクラスにして(しかも正規料金ではなく、ディスカウントを利用して)、ホテルの部屋も普通のものにすれば、「世論」はそれなりに納得するのではないか。
 
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