<自民党オープンエントリーの残念感>元・民主党議員がファイナリストに!不正投票も容易?

政治経済

矩子幸平[ライター]
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思いのほか認知も高まらず、必ずしも盛り上がっているとは言い難い自民党の参院選公認候補者選びの「オープンエントリー」プロジェクト。
盛り上がりに欠ける一方で、12名の候補者がズラッと並んでいるだけの印象は、イマイチよくわからない、というのが正直な感想である。いかにも盛り上がりそうな感じではない。企画、試みとしては決して悪くないだけに、残念な現状だ。
筆者もメールアドレスを登録し、一票を投じてみたが、実に簡単に投票ができるので、自民党の支持者でなくても、試してみることをお勧めする。少なくとも、「この人だけには候補になって欲しくない」という意味で、「その人以外」に投票することで、意思表明は可能だろう。
ところで今回のオープンエントリーには致命的な問題がある。登録が楽なだけに、楽に集票コントロールができてしまうという点だ。
一言でいえば、メールアドレス、氏名、住所、生年月日さえあれば投票者として登録することが可能だ。つまり、「氏名・住所・生年月日」さえわかれば、自分で乱造したフリーのメールアドレスを登録し、投票できてしまうのだ。
住所を知っている友人・知人が、Facebookなどをやっていれば、生年月日を入手することは容易だ。実に、簡単に「偽造投票」ができてしまう。そもそも現状では、登録・投票されたメールアドレスと個人情報を照合したり、「本人が投票したかどうか」を確認することはないだろう。
この問題に気づいている人は多いはずだが、オープンエントリー自体の注目度が十分でないためか、全くメディアに取り上げられることはない。
しかし、冷静に考えれば、ここで選ばれた候補は、自民党の公認候補として参院選に立候補する。つまり、現在の自民党の党勢を考えば、当選し、国会に議席を有する可能性は決して低くない。
そう考えれば、自民党の支持者・反対者の別なく、オープンエントリーでの人気投票は、すべての有権者にとって、結構大きな問題になる。「自民党の候補者選びには興味がない」というだけでは済まされない話だろう。逆に、「こんな奴だけは政治家になって欲しくない」という想いを、水際で阻止できる貴重なチャンスでもある。
つまり、自民党の支持や是非とは無関係に、ファイナリストたちの背景には、よくよく注目する必要がある、というわけだ。
例えば、ちょっと信じられないレベルで驚かされるのは、元・民主党議員である柳澤亜紀氏の存在だ。このファイナリストは、2011年に民主党の公認候補として港区議に立候補し、当選している。
しかし、民主党の凋落と歩を合わせるように、2014年に民主党を離党し、自民党へと鞍替えしている。それを自身のプロフィールやホームページには掲載していないので、オープンエントリーから柳澤亜紀氏を知った有権者はその事実を知ることはできない。
プロフィールでは次ように記載している。

「大学卒業後、株式会社資生堂(総合職)を経て、港区議会議員へ(自民党。現在2期目)。」

これをみる限り、初めから自民党員のようにさえ読める。もちろん、そうではない。元民主党の公認議員だ。もちろん、過去にどこの議員であっても良い。しかし、そういった過去や変遷を含めてオープンにした上で、広く国民の信を問うべきが、本来のオープンエントリーのあり方であるはずだ。
【参考】<熊本地震で民進党ツイッターが炎上>「中傷ツイートは職員の責任」理論は炎上が加速するだけ
これは必ずしも、柳澤亜紀氏だけが悪いと言うことはできない。このような事実を許しているオープンエントリーの運営サイドにも問題があるだろう。
「オープン感」を揺るがしかねない現状のオープンエントリーは、やはり「杜撰」と言わざるを得ない。もちろん、「候補者」候補を選ぶ今回のような企画であれば、多少の「盛り(虚飾)」や「過去隠し」は許されるのではないか、という味方もあろう。しかし、それは大きな間違いだ。今回のケースは、候補者になれば十分に国会議員になる可能性を有するからだ。
最近、経歴の詐称や「盛り」などが大きく注目されている。特にメディアでは、出演者の経歴や実績に詐称や虚偽がないか、といった点にはナイーブになっている。乙武氏の不倫騒動を見れば、それは政治の世界でも同様なのだろう。
ネット時代の今日、自分でうまく着飾ったつもりでも、嘘や「盛り」はすぐにバレてしまう。だからこそ、外部から発覚し、批判される前に、自ら十分な「身体検査」をしておくことが重要だ。特に、正式な公認候補になってから疑義が発覚しては、企画としては建設的であるはずのオープンエントリーの発想や試みそのものが水泡に帰してしまう。
【参考】<今の選挙制度は機能しているか?>18歳の選挙権と同様に被選挙権も引き下げはできる[茂木健一郎]
不正投票が容易に可能である以上、得票のカウントに関しても注意が必要だ。自民党員の一票とそうではない「メール登録の一票」では、重み付けを変えるべきだろう。
例えば、筆者の知る範囲であれば、同じファイナリストの伊藤洋介氏は、オープンエントリーに参加する以前から、自民党からの立候補を目指し、地道に自民党員として活動し、自民党入党への勧誘活動を続けてきた人物である。伊藤氏が入党させた自民党員の一票と、メール登録で簡単に入手できる一票が同一であるとは思えない。
もちろん、これは伊藤洋介氏に限った話ではない。同じように、自民党員としての地道な活動を続けてきたファイナリストは決して少なくないはずだ。
党員の有無を問わず、広く国民からの人気投票で「公認候補者」選ぶというオープンエントリーのシステムは非常に魅力的なシステムだ。他の政党も積極的に導入すべきだと思う。だからこそ、一回目の運用には慎重になることが重要だ。
 
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