<決定版・欽ちゃんインタビュー>萩本欽一の財産(31)「浅草軽演劇は消えてしまうのか」
高橋秀樹[放送作家]
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僕が大将(萩本欽一)に問う。
「浅草軽演劇で修行した人ってもう大将しか居ないんじゃないですか」
「そうだなあ、たけし(ビート)が来た時は漫才かコントで、もう軽演劇はやってなかったからなあ」
「伊東四朗さんはどうですか」
「伊東さんは、新宿フランス座の人で違うよ」
「もうできなくなっちゃうんですか」
「教えれば出来る人はいる」
「誰ですか」
「田中美佐子」
明治座の舞台では主演・演出・萩本欽一、ヒロイン田中美佐子だった。
「美佐子に教えてみた、薪を割るシーンでね。とりあえず割ってみなさいって言ったら、美佐子は『エイ!』って言った。その他には?って聞いたら『オウ!』って言った。だから、お前『エイ!』と『オウ!』しかないのかって。なぜ、『エイ!』とか『オウ!』って言うんだ?って聞いたの」
「ナゼ言うの?」
突然、振りの矛先が僕にやってきた。
僕「力を入れたいからです」
「そうだろ、なら、どう言うの?割ってみて」
僕「(薪割りのしぐさをして)ちから!」
「バカ、そんな奴居ないよ、『エイ!』と『オウ!』を除いても、50音、他にたくさんあるだろ」
僕「グッ」
「良くなってきた」
「美佐子はね、これができたんだよ。『ぐっシュペッチパパカシメれロリホリャろ』って言って薪を割った、受けるよこれ、ホントはこんな奴居ないけど居そうな感じで演じられるんだ」
僕「じゃあ、大将と美佐子さんは浅草軽演劇ができるとして、男性は居ないですか」
「ああ、いるよ、一人、お会いしたことはないけれど、この俳優さんきっと出来るって思ってるの、名前が出てこない」
「どなたですか、思い出して下さい」
「ええとね、刑事とかやる、60歳から70歳位で、セリフが軽くていい芝居するの、主演とかもするよ。脇もやる。脇にこの人が居てくれたら心強いだろうなあって思える俳優さん、大滝秀治さんに顔が似ているの、日本で芝居の上手い俳優さん3人挙げろって言われたら誰が挙げてもそこに入る、NHKの朝のテレビ小説3年分見たら必ず出てる人、これから3日をテレビを見続けても必ず出てくる人。名前はたしか一字、ここまで出てるんだけど。松……。もうすぐ出るんだよ。ああ気持ち悪い」
僕は、さんざん俳優さんの名前を挙げたが全部違う。そろそろ夜も更けてきた。家で考えて思い出したら電話します、と言って大将宅を去った
で、調べた。大将の言ったヒントをデタラメに検索ワードにしてググる。2人の候補がリストアップされた。
本命・橋爪功さん。対抗・角野卓造さん。お二人の名前を大将の留守番電話に吹き込む。翌朝、電話が来た。正解は橋爪功さんだった。
ああ見たい。
配役:近藤勇・・・萩本欽一
:月形半平太・・・橋爪功
:雛菊・・・田中美佐子
この3人の浅草軽演劇を実現するのが、僕の夢の一つに加わった。
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