NHKにはまだバラエティ番組を作る力がない

テレビ

高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]

***

NHKは基本的にバラエティの作り方が下手である。最近の「チコちゃんに叱られる!」などを見ると、上手になったように思えるが、これを実際に作っているのはフジテレビ系の制作プロ共同テレビのスタッフである。純然たるバラエテイではない「ためしてガッテン」などの、情報を絡めた番組は構成もしっかりしているのだが、未だにバラエティになると馬脚を現してしまう。

そんなNHKの駄目バラエティ要素を詰め込んだ番組が、11月23日放送の「お取り寄せ不可!? 列島縦断 宝メシグランプリ」であった。放送はニュースをはさんでの7:30~10:00。堂々の2時間30分の生放送。
駄目な要素をあげていこう。

(1)企画が陳腐

公式ホームページには以下のような企画意図が書かれている。

<「あなたはまだ知らない!」日本には、まだまだ隠れた絶品料理があることを。その地域でしか食べられない極上の味。限られた時期にしかない超レアな逸品。全国各地に眠る絶品料理「宝メシ」を探し出し、100人の食の専門家が自慢の舌で「宝メシグランプリ」を決定します。>

ありがちな企画で実際にこれまでも同じような意図で放送された番組がある。しかし、ここはNHKの物量と大量動員作戦でネタを探せばいいものが見られるかもしれないという希望はまだあった。ところが・・・。

(2)キャスティングされた人がどんな役割をするのかの指示が演出側からなされていない。

MCは、井ノ原快彦・杉浦友紀アナウンサー「朝イチ」では定評のある井ノ原だが、これは、有働という任せておけば進行は完璧という相棒がいたからである。このガチャガチャした生放送で、進行とトーク回しのツッコミの両役をやらせるのは可愛そうだ、杉浦アナを純然たる進行に置くべきだ。

おそらくスタジオリポーターの役周りで起用したのだと思われるハリセンボン。これも機能していない。近藤春菜が冒頭で「誰が角野卓造やねん」と、持ちネタをかまして「これで今日の仕事終わり」と言っていたが、これは芸人の本音である。おらく朝から何時間もリハーサルをして、自分の出番はこれしかないので頭でやっておかないと出る幕がなくなると春菜は感じていたのだろう。

【参考】「世界のナベアツ」落語家・桂三度がテレビタレント再起への野望?

生放送だと要素が足りなくなってショートしては大変だと思うから、未熟なスタッフは何でもかんでも詰め込もうとするのだが、ショートした試しはない、少しゆるゆるに作って、井ノ原にもハリセンボンにも、もっとトークさせないとギャラがもったいない、今回は、一言換算でギャラはいくらになったのか。

(3)宝メシ探しのVTRが予定調和でつまらない。

何と言ってもこれが番組のメインの要素であるはずだ。ところがこれがみな予定調和で驚きのない悲惨なしあがりのVTRであった。何をやるか分かって撮っているのに、「一体何をやるのか」みたいなナレーションのアオリは今どき、小学生のビデオクラブでもやらない。

(4)宝メシの採点法は意味がない。

スタジオには服部幸應や平野レミ、デヴィ夫人、中尾彬、落合務など、食通や料理人が100人、審査員としてひな壇に座っている。採点は宝メシの「味覚」見た目の「衝撃」宝メシに込められた「知恵」宝メシにまつわる「物語」がそれぞれ5点ずつで、審査員が一人総計20点で投票する。こういう点の分け方はスタッフの自己満足なだけで、見ている方にはなんの関係もない。dボタンでの視聴者の支持集計にもなんの意味もない。この説明をする時間を本来の番組の中身に使うべきである。

(5)縦をつなぐ企画はいらない。

長い生放送の番組だと、三回目くらいの会議で誰かが「ずっと見てもらうために縦をつなぐ企画があったほうがいい」と言いだす。まあ、ずっとマラソンで走ればというようなことだ。だがこれは必要はない。今回は関東地区の宝メシとして「千葉のアオリイカを獲って、干したものを生放送中にスタジオに持ってくる」というタテ企画が用意されていたが、生放送でやらなければならなくなってしまったがために大変未消化な宝メシになってしまった。

(6)「召し上がれ」の合言葉が空虚に響く。

宝メシを100人の審査員にサーブするスライド式のテーブルはよくできていた。井ノ原、杉浦の「召し上がれ」の合図とともに100人分の料理が出てくるのは壮観である。
ところで、台本を書いていると、なにか決まり文句のようなものがほしいと思うようになってこの「召し上がれ」のような言葉をつい書いてしまうのだが、これはあまり意味がない、この番組は「召し上がれ」が強調される番組ではなく、「召し上がった後の味の評価」がメインとなってこそ楽しい番組のはずだ。

【あわせて読みたい】