<ガーシー基礎票30万人>今後も当選するたびに除名にするのか?
藤本貴之[東洋大学 教授・博士(学術)/メディア学者]
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斡旋収賄罪、受託収賄罪、政治資金規正法違反、証人喚問における偽証など、さまざまな汚職疑惑で議員辞職や逮捕に至った鈴木宗男元受刑者兼参議院議員(ムネオハウス)が委員長を務める懲罰委員会において、3月14日、ガーシー参議院議員の「除名」が決定した。
鈴木氏は委員長報告として「本人はもとより選ばれた、投票された有権者の皆さんも考えて戴きたいものである」と述べたが、ムネオハオス鈴木は何か勘違いをしているのではないか、と思った人は多いはずだ。投票された有権者の皆さんも考えて戴きたい?・・・何を言っているのか。ガーシー氏に投票した30万人の多くは、しっかり考えた末に、今の国政に一矢報いるぐらいの気持ちで一票を投じていたように思う。タレント候補や組織票候補に入れるような単純な選択とは性質が異なる。
今回、ガーシー氏に投票し、彼を当選に押し上げた30万人は、もし次の選挙にガーシー氏が立候補すれば間違いなく、彼を再び当選させるだろう。おそらく、この30万人とはガーシー氏の持つ頑健な基礎票である。今後、メディアや政治が’結託して「ガーシーは投票に値しない奴」という国家的なキャンペーンが展開され、30万基礎票の切り崩しにかかるのだろうが、筆者としてはこの30万人を切り崩すことは容易ではないように思う。そのあたりの分析を多くの政治家たちは見誤っているようにも感じる。
次、あるいはその次の選挙でガーシー氏が当選したら、現在の国会は今度はどうするのだろうか? このことに興味を持っている有権者も多いだろう。国会はガーシー議員やガーシー首長が生まれるたびに、ガーシー氏を除名したり、身分剥奪をし続けるのだろうか?
[参考]<ガーシー狙い撃ちは理不尽>全議員の欠席数・発言数・露出数の情報公開を
「登院せずに政治活動をする」ことを公約にして当選した議員の存在は、いわば「オンライン議会」の実現や「議場にいるだけが議員ではない」という民意の表れでもある。今回の除名処分は、現在の国会が、その民意には一切耳を貸さず、居眠り議員や無発言議員は注意・処罰せずに現状維持、という既得権益ルールを墨守するということの意思表明なのだろうか。今回のガーシー議員の一件は、期せずして、我が国では選挙で民意が届かない、選挙をする意味がない、大政党意外の主張は無視される、ということを明らかにする結果になっている。
一部の報道では、次の選挙でもガーシー氏は立候補するとも言われるが、一方で、「あなたたちが作った世界を壊されたくないのであれば、きちんと最初から立候補の段階で排除してください。何の決まりもなく、当選してからごちゃごちゃ言うのは後出しじゃんけんですよ」と代読された弁明で述べた。
国会議員とは言うまでもなく、選挙によって選ばれた人である。少なくとも日本ではクーデーターや裏口選挙で選ばれているわけではない。だからこそ、選挙は民主主義の基本なのだ。今回のガーシー氏の除名は、「議場に行かない政治手法」という彼の公約を支持している人たちの民意に対する国家からの拒否である。もし、日本の法体系がそれを容認するのであれば、公職選挙法に「議場に行かないという公約は禁止」「オンライン議会を政策に入れた人への投票は無効」といった条文を付け加えるべきである。
ガーシー氏が選挙が行われるたびに立候補し、当選し、除名させられるということを繰り返したとしよう。今度の懲罰委員会は、ガーシー氏の公民権の停止でも審議するのだろうか。あるいは二度と選挙に出れないように(立候補したくなくなるぐらい)、逮捕や勾留、あるいは社会的抹殺、生活者としての権利剥奪を行い、議員の身分を失ったガーシー氏を徹底的に叩くのだろうか。
期せずして、ガーシー氏の存在は、社会に流布されている私たちと国家、庶民と政治家の関係が「幻想」であることを気づかせるきっかけとなったように思う。ガーシー氏の一件は、彼自身の個人的なトラブルはさておき、私たちに議員の身分の意味や民意の尊重の意義といったことをも改めて気づかせてくれたように思う。
とはいえ、私たちの民意が、選挙では絶対に届かないような社会はさすがにマズい。
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