迅速すぎる!理由なき「公務員の生涯賃金3600万円増」法案

社会・メディア

メディアゴン編集部

***

2018年中の国会での成立を目指し、公務員(国・自治体)の「65歳完全定年制」の検討進められている。

何かと対応の遅い役所・公務員であるが、この件だけは異常に迅速で、2019年から段階的に定年を延長し、2025年には「65歳完全定年制」に移行するという。年金の支給開始65歳に対応させるための「国家公務員法」と「地方公務員法」の改正なのだろう。

公務員という職業は、その安定性が魅力で、競争原理が働かないにもかかわらず、高給で安定していることは誰もが知ることだ。

例えば、日本人の平均年収が414万円であるのに対し、都道府県の公務員の職員は663万円となっており、なんと250万円も高い。民間企業では男女の収入格差の著しさが問題となっているが、公務員には男女による賃金格差はない。

「日本人の平均年収414万円」といっても、これは「もしかしたら、明日、会社がなくなっているかもしれない」という可能性が常につきまとう。自治体や日本政府が消滅しない限り、その可能性が限りなく0に近い公務員とは対極的だ。企業のように、理不尽な倒産やリストラの危機に迫られる可能性もほぼない。

ようは、その仕事内容・職場環境のリスクの低さに対し、法外に「高値安定」しているのが、公務員ということになる。

例えば、東京都の職員をサンプルに見てみよう。

東京都職員の平均年収は718万円。この金額は全自治体のうち第1位である。全国47都道府県職員の平均年収は、663万4697円であるため、東京都職員は、他に比べ50万円ほど高い。最低は沖縄県の584万6528円であり、これは47都道府県中、唯一の500万円台であるものの、日本人の平均年収より170万円も高い。

沖縄以外の46都道府県は全て年収600万円以上であり、東京都・滋賀県・三重県・徳島県はいづれも700万円台。これは日本人の平均年収に比べて300万円も高給だ。

さて、定年直前の平均年収、すなわち「平均最高年収」は地方公務員でも「718万4868円」である。奇しくも公務員年収第一位の東京都職員の平均年収と同額である。よって「公務員65歳完全定年制」が実現し、5年延長されれば、最低でもこの年収が5年間継続することになる。つまり、公務員の生涯年収が突然、平均3592万円も増加するわけだ。

【参考】東京都の大半が「原発ゴミの最終処分場」の候補地だ

日本人の平均生涯賃金は、大卒の場合で、退職金とあわせて約2億4000万円と言われている。それに対して、公務員の生涯賃金は、2億8000万円と、普通のサラリーマンに比べて、すでに4000万円も高い。

これにさらに約3600万円が上乗せされれば、その格差は8000万円近くにまで広がる。経営者や芸能人・スポーツ選手でもないのに、この官民格差は、もはや同じ国民とはいえない金額差だ。しかも、その高額年収を支払っているのは、彼らより年収の低い一般納税者たち、という矛盾。

もちろん、データの見方、扱い方によって、賃金や数値の高さ低さには多様な違いが出る。国際比較でも、統計的な数値では、日本の公務員の平均年収を海外と比較して高くも低くも見ることができる。しかし、そういった「細かい数値ゲーム」はさておき、「法案ひとつでいきなり生涯年収がわずか5年で4000万円近くも跳ね上がる」という点に「不均衡」という大きな問題があるように感じる。

職業によって、収入が違うことは当然だ。業種・業界によっては利権などが守られている領域もある。それはそれで社会の構図として致し方がないことだろう。しかし、どのような業界であれ、近年は、経営状態や社会の労働環境の変化に伴い、就労状況や待遇は比較的容易に低下している(あるいは、利権が守られなくなっている)。

例えば、「大学・学校」のように、従来のイメージから「守られているはず」の業界でも例外ではない。例えば昨年、北海道大学が教授205人に相当するリストラ案を出し、研究・教育活動が危ぶまれているという話は衝撃が走った。「一番守られているはずの国立大学」でさえ、33大学で定年退職者の補充人事が凍結されている。

私立大学でも、かつては70歳定年が主流であったが、現在ではほとんどの私大の定年は65歳である。さらに、永久雇用から任期制・年俸制へのシフトも急速に進んでいる。民間企業ではさらにその動きは顕著だろう。雇用形態の多様化であることは間違いないが、チャレンジングな社会になっている一方で、不安定感は高まっている。労働内容を問わず「高値安定」しているような業種は、もはや公務員ぐらいなのだ。

【参考】「官僚=公僕」の人事権を官邸から取り戻せ

そのような中、とくに経営的・経済的な理由もなく定年が延長(事実上の昇給)され、民間(国立大学を含め)ではありえないほどの頑健な就労が構築されている公務員業界。「公務員の営業努力によって、日本国の売り上げが上がった」という話も聞かないのに、なぜか職員の待遇が飛躍的に向上するというのは、一般的な感覚では理解できない。

経費節減、人件費削減、早期退職などのシステムが民間で加速する中、公務員業界は、なんら営業努力を迫られることなく、法案一つを通過させるだけで、生涯年収を4000万円近くを増やすという事実。

国会議員の不倫騒動ばかりが情報番組を騒がせているが、冷静に考えれば納税者としては「公務員の生涯年収3500万円増法案」の方がはるかに大きな問題だ。官僚が意図的に政治家ゴシップをリークすることで、納税者の関心が他に行かないようにしているのではないかと勘ぐってしまう。

【あわせて読みたい】