<禁忌薬使用は医療の闇か①>韓国セウォル号裁判が殺人事件なら、もしかして東京女子医大2才児死亡事件も殺人?
藤沢隆[テレビディレクター/プロデューサー]
韓国ではセウォル号沈没事件の裁判がはじまっています。
韓国検察は船長ら4人については業務上過失致死罪ではなく殺人罪で起訴しています。殺人罪とは“殺そうという意志”を持って人の命を奪うことですが、韓国検察は、救助処置をしないと死ぬであろうことを知りながら、乗客に船内に留まるように指示し、自らが脱出したのは“不作為”や“未必の故意”による殺人であると判断したと言われています。
“不作為”とは死の危険が迫っている人を何もしないで放置するようなことですね。“未必の故意”は、明確な殺意はないものの、その行為により相手が死ぬであろう危険性を認識していたような場合です。
警視庁が業務上過失致死罪の疑いで調べに入ったと報じられる東京女子医大2才児死亡事件はどうでしょう。業務上過失致死罪とは、必要な注意を怠ることで人を死なせてしまう罪です。
問題の鎮静剤ポロポフォールは小児に対しては集中治療における人工呼吸時に使用することが“禁忌”とされています。禁忌の内容は当然ながらこの薬の添付文書(取説のようなもの)に、『小児(集中治療における人工呼吸中の鎮静)には使用しないで下さい。』と大きくはっきりと記されています。理由は『因果関係は不明だが小児等で死亡例が発生している』からと説明されています。
東京女子医大病院は必要な注意を怠たるという過失を犯したのではありません。禁忌とされる内容を十分知りながらポロポフォールを使用し(成人男子基準量の2.7倍の量を投与したという報道もある)、しかも足かけ4日間も投与し続け、その結果として2才児は死に至ったのです。
注意を怠ったのではなく充分に承知していながらあえてやった行為、これははたして業務上の過失なのでしょうか。韓国検察のような考え方をすれば、こちらも“不作為”や“未必の故意”による殺人という考え方もあるのではないのでしょうか。
ところが、問題の鎮静剤プロポフォールについて専門の医師の間では、小児に対し集中治療中における人工呼吸中であってもプロポフォールの禁忌事項はあくまで原則のようなものであって、医師の判断で使用することはあるという趣旨の発言が少なくありません。そして現実にプロポフォールは医療の現場で禁忌とされる条件下でもかなり使われているのは事実のようです。
禁忌のはずが少なからず使われ、医師たちは禁忌事項を破ってもまずいことをしたなどとは考えていないのです。それはなぜでしょうか。そこにはなんとも不透明な、素人には釈然としない世界があるようなのですが、そこは次回に。
[その②]を読む。
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