<東海テレビの勇気に賞賛>ヤクザの人権に迫るドキュメンター映画「ヤクザと憲法」

映画・舞台・音楽

高橋秀樹[日本放送作家協会・常務理事]
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東海テレビは性根の座ったテレビ局である。
コンプライアンスをまるで「さわらぬ神にたたりなし」のことと誤解して運用するメディアが跋扈する世の中で、名古屋にあって異彩を放つこの民放の存在は筆者に心安らぐものを与えてくれる。
東海テレビ制作のドキュメンタリー映画「ヤクザと憲法」(監督・𡈽方宏史/プロデューサー・阿武野勝彦)を、ポレポレ東中野で見た。筆者が見た日は休日であったこともあり、客席は補助椅子が出るほどの満員である。
「ヤクザと憲法」の主人公は2人。一人は大阪・堺に本拠を置くヤクザ、二代目清勇会会長・川口和秀。俳優の渡部篤郎から、にやけたところを取り去った要望の人ぶるである。西成にある一本独鈷の組織、東組の二次団体である。
もう一人は山口組の元顧問弁護士・山之内幸夫。三浦友和主演で東映で映画化された「悲しきヒットマン」の原作者でもある。建造物損壊教唆罪で、2015年11月19日、最高裁の上告棄却で有罪確定。弁護士資格を失っている。穏やかな容貌のおじさんである。
主人公はこの2人だが、見るべきものはまだある。およそ2年に渡って清勇会の本部に入り続けたカメラは、何かを撮ろうとか、あのコメントを言わせようとかそういう欲がない。ひたすらヤクザの日常を観察する。
だから、派手な抗争も、ヤクザの恫喝も映らない。21歳で、部屋住みと呼ばれる若者は、いじめにあって逃げ込むようにヤクザの世界にやってきた。一方で膨大な蔵書を抱える本の虫である。あるヤクザは選挙に行かない。在日で選挙権がないからだ。
こうした観察を続ける中で、ヤクザは暴対法によって奪われた「ヤクザの人権」について語り出す。

  • 曰く、子供が幼稚園への入学を拒否された。
  • 銀行口座が開設できず、給食費が振り込めない。

川口会長はこうした「ヤクザの人権無視」について憂慮している。
2008年5月2日に改正され同日一部施行、8月1日に完全施行された暴対法はヤクザのあらゆる行為を禁止するが、やはり、これは憲法違反なのではないかというのが筆者の考えである。
権利は義務ともに発生するというのは、一見正当な考えのように思えるが、それは、義務を果たすことができるという状態にあってこそ成立する。ヤクザや元ヤクザはどこに行けば受け入れてもらえるのか。川口会長もそう呟く。
かつてであれば、「暴対法は憲法違反かどうか」の討論番組は、自由にテレビでできたと思うが、今は、どのテレビ局も尻込みするだろう。「少数派でしかも多数派から疎んじられている存在の側に立つことは重大なコンプライアンス違反」なのである。これは、あからさまに我が身かわいさ故の誤りであり、報道機関の死である。
 
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