<NHK「クローズアップ現代」やらせ報道>番組は事実だったのか?それとも何の裏付けもない嘘だったのか?

社会・メディア

両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]
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12月11日、BPO(放送倫理・番組向上機構)の放送人権委員会はNHK『クローズアップ現代』の「出家詐欺報道に対する申し立て」に関する「勧告」を公表しました。
この申し立ては2014年に『クローズアップ現代』などで放送された出家詐欺に関する内容のうち、出家を斡旋するブローカーとして紹介されていたA氏が、自分は出家ブローカーではないにもかかわらずブローカーとして放送されたのは人権侵害に当たるとした申し立てです。
今回、BPO勧告の結論は人権侵害にはあたらないというものでした。映像や音声を加工することで視聴者が画面上の人物をA氏と特定することは不可能だからA氏の人権が侵害されることはない、という理由でした。
そしてBPOはこの問題に関して自民党や総務省が異例の「事情聴取」や「厳重注意」を行ったことに強い懸念を示した上で、NHKに対しては、

「報道番組の取材・制作において放送倫理の遵守をさらに徹底すること」

を勧告しています。これでNHKの調査委員会の報告、BPOの勧告と出そろい、この問題は少しずつ人々の記憶から消えて行くのでしょう。
充分だったかどうかはともかく、手法や人権については検証されました。しかし、今もって最も大事なことが結論づけられていないように思うのです。それはこの番組で語られた「事実」は果たして本当に「事実」だったのか、についてです。
たとえて言えば、A氏が出家ブローカーであろうが、NHK記者の要請で出家ブローカー役を演じたにすぎなかろうが、番組の中でA氏の口から語られた内容、さらに番組の他の部分もどこまで事実だったのかついてはいまだ根拠を持って示されていません。
「NHK調査報告書」と同時に公表された「外部委員3名の見解」には、「(A氏が)出家詐欺のブローカーとして実際に活動していたことを確証し得る証拠・証言は現時点では存在しない」とあります。
また今回のBPO文書によれば、当該番組の中で、A氏がブローカーとして多額の報酬を得ているとか、A氏を訪ねる多重債務者が後を絶たないなどとナレーションされた部分も取材された事実ではないとされています。だとすると、番組内でA氏が語ったことがらはA氏の勝手な出任せだった可能性だって完全に否定されるものではありません。
2015年4月15日にNHKが調査報告書や調査委の見解を放送した時に、クローズアップ現代の国谷キャスターは涙ながらに、

「事実に誤りがある番組を放送してしまったこと、視聴者の信頼を損ねてしまったことをおわびいたします。(中略)今回調査委員会により、その一部が視聴者の信頼に反する内容と指摘されました。私としても残念でおわび申し上げます」

と語りました。
国谷キャスター自らが「事実に誤りがある番組」「一部が視聴者の信頼に反する内容」と言う以上、2014年5月14日に放送された『クローズアップ現代「出家詐欺」~狙われる宗教法人から』という番組の内容の少なくとも一部は「事実に誤りがある」「視聴者の信頼に反する」ものだったのですから、言ってみれば「欠陥番組」が放送されたまま放置されていることになります。これが出版物なら回収するところでしょうが、放送されてしまった番組はどうにも回収ができません。
『クローズアップ現代』は長年すぐれた調査報道を続けてきた特筆すべき番組です。この番組を支えてきた多くの心あるスタッフが今回の出来事をどれほど悔しく感じているか、同種の番組も手掛けてきた筆者には容易に想像ができます。
ならば事が風化する前に、その悔しさと持てる力とプライドをかけてこのテーマを改めて取材し視聴者の信頼に応える出家詐欺問題の「完全版」を放送することで「欠陥番組」の修正を試みてはどうでしょう。他ならぬ『クローズアップ現代』ならばきっとできる、そして『クローズアップ現代』らしい視聴者への謝罪と責任を全うする方法だと思うのですが。
 
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