AbemaTVは「金のかかっていない地上波」にならないことが成功の秘訣?

社会・メディア

高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
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サイバーエージェント社とテレビ朝日の共同出資によるインターネットテレビ「AbemaTV」(アベマティーヴィー)に出演した。番組は「AbemaPrime」である。
筆者の出演は、番組の核になっている討論コーナーである。テーマは「今の地上波テレビは面白いか、つまらないか」。番組からは、「今の地上波テレビは面白いと言う立場に立ってディベートをして欲しい」と筆者は依頼された。ディベートであるから、面白くないと思っていても面白いと言う立場に立って理論を構築すればいいわけで、これは面白いと考えて直ぐ引き受けたのである。
この討論で筆者や誰が何を言ったかということは、さておき、スタジオ入りした時の感想を述べておく。筆者が出演した時の司会は吉本新喜劇の小籔千豊、他にアナウンサーが進行役としてついていた。大阪ローカルのテレビ番組のようだ。
スタジオはイベントブースを改造したサテライトだが、通常の地上波放送の作りと変わらない。例えていうなら、ローカル局の情報番組程度の作りである。
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AbemaTVは、とくにスマートフォン向けのストリーミング形式によるインターネットテレビである。オン・デマンドではなく、チャンネルごとに決められた番組のタイムテーブルに従って放送(配信)される。利用者は自分の好きな時間に見たい番組を視聴することはできないので、通常のテレビ放送と同じと考えた方がよい。
ただし有料のプレミアムプランに登録することで、放送が終了した番組をあとからオンデマンド方式で好きな時間に視聴すること(タイムシフト予約)ができる。このあたりはニコニコ生放送と同じである。
スタッフに聞くと、すべてを課金制の有料放送にするのはもう少し先で今は無料で知名度を上げる時期だと思っているとのことだ。
番組の途中には地上波テレビと同じようにCMが流れる、つまりビジネスモデルとしては課金制放送とコマーシャル放送から、お金を得ようという仕組みである。雑誌や新聞と同じと考えても良いだろう。このモデルが成功すれば、従来の民間放送にとっては脅威となると思われる。
成功の鍵は、もちろん番組内容である。しかし、筆者の出演したコーナーは「ゆるい地上波放送」の域を超えてはいなかった。
たとえば出演者であるが、多くの人に見てもらうには本来は筆者のような無名の者ではなくテリー伊藤を呼びたいところであろう。しかしテリー伊藤を呼んでいては地上波と変わりなくなってしまう。
そこがジレンマだ。ギャラは地上波の半分以下であるが。それでもまだビジネスモデルとして成立していないAbemaTVが払う額としては高額である。払い続けられるのだろうかと心配になった。
同番組に出演したことのある東洋大学・藤本貴之准教授にも話を聞いたところ、次のように述べてくれた。

「まず、スタジオに地上波テレビなみにスタッフがいて驚いた。控え室にちゃんとした弁当が用意されていたのことも、一般的なネット放送にはない習慣だろう。AbemeTVがネット放送である、ということを考えると、なんだか不思議な感覚だった。地上波テレビの人が違和感なく入り込める環境を作ることで、テレビとネットをシームレスに繋ぐことができる点はポイントだろう。ニーズの有無はさておき、ネット放送に地上波クオリオティを持ち込むためには有効な手法かもしれない。」(藤本貴之・東洋大准教授)

いづれにせよ、極めて「テレビ的」なのだろう。
【参考】<尾木ママのブログはただの暴力?>なぜ尾木直樹氏のブログは炎上するのか
番組のなかで今の地上波には「とんがった企画がない」と言う発言があったが、筆者としては「とんがった企画が必要なのはAbemaTVの方ではないか」と感じてしまった。
AbemaTVをビジネスモデルとして成立させるには、「金のかかっていない地上波の番組」をやっていてはダメだ。もっと、もっとカルトに徹して、アンダーグラウンドテレビというような性格を持つことが大事であろう。
 
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