<賃金奴隷とカネの亡者>民主主義が機能しない資本主義は恐ろしい
保科省吾[コラムニスト]
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『時間かせぎの資本主義』(ヴォルフガング・シュトレーク著・みすず書房)が、おもしろい。
誤解を恐れず端的に要約すれば、
「冷戦を勝ち抜いて社会主義に勝利したかに見える資本主義は、以後、強欲な金融資本主義に乗っ取られ、格差と貧困を生み続けている。あまりの欲深どもが牛耳る金融を何とかしなければ資本主義は死に絶える、今は、強欲な者どもの金融資本主義延命の時間稼ぎの時間に過ぎない」
と、筆者は読み取った。
「いま世界は銀行危機、国家債務危機、実体経済危機という三重の危機の渦中にある」と本書にはある。「資本主義の危機を財政出動によって先延ばしする“時間かせぎ”はいまや限界に達している」ともある。
まさしく現在の日本である。
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「ギリシャ危機とその前提であるユーロ危機に象徴的に見られるように、国家と市場の民主主義的コントロールはもはや不可能なのか」とも書いてある。日本銀行のマイナス金利政策を思い出す。インフレターゲットなど可能だとはとても思えない。
資本主義はこれまでその暴走を民主主義によって抑えられてきた。しかし今は「民主主義は脱経済化してしまい。それによる資本主義の脱民主主義化のプロセスの中にある」
民主主義が機能しない資本主義ほど、恐ろしいものはない。
「資本主義体制保持のための政策は、第一に貨幣量のインフレーションによって(量的緩和である)、第二に国家債務の拡大を通じて(巨額の公債発行である)、第三に家計部門への野放図な信用供与(サブプライムローンを思い出す。国の借金という名のまやかしの言葉を使って、実体は借金が家計につけ回されているのである。税金さえ搾り取れば何とかなる)」(前掲書から引用。括弧内筆者補足)
この状態を生んだのは「利潤奴隷」たちである。「利潤奴隷」とは筆者の造語であるが、ようは「カネの亡者」のこと。金に金を生ませることしか考えない強欲金融主義者のことを筆者は「利潤奴隷」と呼んでいる。
パナマやケイマン諸島のタックス・ヘイブンにペーパーカンパニーを作って税金逃れを画策する、カネの奴隷たちである。この人々の主人はカネだから、カネにはすべからく頭を垂れる奴隷、利潤奴隷だ。
朝日新聞が件のパナマ文書に「DENTSU SECURITIES INC」と「NHK GLOBAL INC」が記載されているという話が、何の根拠もなくネット上に書き込まれ、両社が風評被害を受けていると言う記事を載せている。
何でもかんでも叩けば面白いと言うノイジー・マイノリティ(noisy minority)、すなわち「うるさい少数派」の仕業であろう。この場合はマイノリティ・少数派であるが、哲学者ニーチェによれば民主主義を守ってきたのは(世の中の人が守らなければならない法律を作ることが民主主義である)いわば、マジョリティ(majority・多数派)の人々である。
マジョリティとは、誰かというと「資本家に使われてきた人々」である。中世なら奴隷である。
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力の強い者ならば、その力に物言わせてすべてを収奪すれば良いが、奴隷や女など力の弱い者は、力の強い者から財産や身を守るに当たって、力ではなく多数決で決めたルールや法律を持ってしなければならない。それをニーチェは奴隷道徳と呼んだのである。
現在の奴隷と言えば賃金奴隷である。賃金にしばりつけられて自分お時間を切り売りして、働かされている資本主義下の労働者、つまり世界のほとんどの人のことである。賃金奴隷を使っているのは利潤奴隷である。2種類とも資本主義の奴隷だと考えたとき、どちらに属したいと思うだろうか。
筆者は賃金奴隷である。オバマ大統領はタックス・ヘイブンについて「合法だから問題なのである」と発言している。賃金奴隷ならば多数を頼んで利潤奴隷を縛る法律を作ることが出来る。たとえば、一定額以上の海外送金には税をかける。
本当は今回の伊勢志摩サミットで最も緊急に議論しなければならないのはこのことだと思うのだが、G7はいまや皆が思惑違いの烏合の衆になりはてている。
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