<政党もYoutuberに負ける?>千葉県知事選挙で痛感する情報発信力の差
水野ゆうき[千葉県議会議員]
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3月21日の千葉県知事選挙。20時に投票箱が閉じた瞬間に前千葉市長・熊谷俊人氏(無所属)の当確が出た。
今回の千葉県知事選挙といえば、複数の異色候補が立候補し、マスコミによる「与野党対決演出」が強く打ち出され、地方首長選挙にもかかわらず、国政選挙なみの選挙エンタメとして注目された。Youtubeには政治や政策的なことはさておき、千葉県知事選挙の動画が乱造されたので、一部では「千葉県知事選挙、何をしとるんだ」といった揶揄さえ広がった。
筆者は当選した熊谷氏とは、無所属の同志として早い段階から支援を続けてきた。
無所属という立場で、筆者はこれまで多くの選挙を見てきているし、実際に選挙応援にも入る。そして、3回の選挙を経験している筆者も今回の知事選で確信したことがある。
それは情報発信力の差だ。
どの選挙においてもそうだが、選挙が近づくと突然、候補者たちによるSNSでの発信が増える。それまで何もしていなかった人が、突如、情報発信を始めるのだ。そのため、筆者はこれまでも選挙の前だけの活動だけで評価してはいけない、ということを幾度となく訴えてきた。毎日の情報発信、任期4年間の活動で評価していただきたい、と。
今回の知事選挙においては、日々、情報発信に力を入れてきた熊谷俊人氏の影響力と拡散力はどの候補者も追いつくことはできなかった。ツイッターのフォロワー数は現段階で24万人を超え、市長時代は常にSNSを駆使してほぼ毎日のように行政の情報や自身の考えを選挙関わらず日頃から発信してきたことが勝因のひとつであったであろう。もちろん、伝え方も重要だ。
例えば、異色候補とされる複数の候補者たちは、単に奇抜だったから注目されたわけではない、という点にも気づかされた。実際に、選挙前から日常的にSNSやYoutubeなどで情報発信を続けてきた人が多い。そのため、異色で奇抜には見えるが、主張や情報自体は意外と地に足がついており、見た目やコンセプト以上に奇抜ではないことがわかる。
実際、路上街宣では、主要候補者とされた政党候補者の何倍もの支援者、ギャラリーを集めていた異色候補もおり、しっかりとした「地盤」があることを痛感させられた。日々の地道な情報発信の成果だろう。将来的には、大手政党が個人Youtuberに選挙で負ける日が来るかもしれない。
筆者もほぼ毎日SNSは更新するようにしている。社会、政治、経済、コロナ関連、災害・・・何も動かない日は1日たりともない。特に、このコロナ禍では不安な日々、厳しい経済状況に追い込まれている企業や家庭に対して、積極的に情報は発信していくべきだと思う。たとえ、フォロワー数が少なくても、Facebookの友達が少なくても、ブログのアクセス数が少なくても、その投稿で救われる人がいるかもしれない。SNSが生活の一部となった今、有権者は見ていないようでしっかり見ているのだ。この結果は政治家へ緊張感をもたらしたであろうし、投票率の向上にも繋がったと思われる。
今回の千葉県知事選挙の投票率は前回より7.81ポイント上げて38.99%となった。
事実、筆者もどこの政党の支援も一切受けずに超党派で信頼できる有志や家族、後援会、ボランティアの皆様方で行う無所属の手作り選挙でも、政権与党自民党と野党第一党である立憲民主党と闘って、勝利をつかむことができたのも、確実に日頃の活動が可視化されていたからだと思う。筆者の県議選も投票率を上げることができた。
ネットがない時代は、政治家が毎日どこで何をしているのかなんてわからなかった。政党に属している組織的な候補者や大物政治家の支援を受けているような、いわゆる「主要候補」くらいしか報道もされず、有権者に情報は届かなかった。
しかし、今は違う。
誰でも様々なツールで情報発信ができるし、場合によっては、パーソナルメディアが主要メディアを凌駕するほどの影響力を持つようになっている。むしろ、「発信をしていない政治家=活動していない政治家」という風潮にすらなった。選挙前に突然情報発信を始める政治家のフェイクもすぐにバレる。
情報を発信するということは勇気がいる。発信により賛成も得られるが、批判も少なくない。批判を受け止める力ももとめられ、精神的にも負荷がかかることは言うまでもない。特に政治家は過敏に反応して、すぐに反論してしまったり、感情的な内容の投稿も散見される。
ネット時代の選挙は、そういったネットツール、ネットメディアのコントロール力も試されているのだ。付け焼き刃では絶対に対応できない。
また、コメント機能、リプライ機能などを利用して、相手陣営に対して批判などを投稿や工作をする政治家も少なくない。実際に筆者も国政政党の枠組みで言えば野党系政党所属の陣営にSNS等でもあることないこと様々なことを書かれてきた。これも人間臭くて良いのかもしれないし、それを信用する人もするのかもしれない。
ただ、冷静に考えてほしい。こんなネット悪口のようなことを有権者が求めている情報だろうか。
政治家はとかくネットに弱い。筆者のような30~40代の政治家や民間出身の政治家は時代の流れにアンテナを張っており、SNSの有効な活用法などは研究している。「共感」を得られるものが支持される、ということはもはや常識であるが、感情にまかせ書きたいことをそのまま書き散らしている政治家は今一度考えた方が良い。仲間うちでは支持されるかもしれないが、それを見た一般有権者は支持するだろうか。
筆者は新知事に決まった熊谷俊人氏とは同じスタンスでこれまで仕事してきた。出馬前に何度も県政課題を話し合い、「選挙も無所属で、中立ど真ん中で県民本位の県政をしてほしい」と注文した。
熊谷氏本人は既に特定政党の公認や推薦はもらわないと決めていた。特定の野党政党にアレルギーを持つ県民は多いが、SNSでもきちんと本人は特定政党には与しないと伝えていた。
しかしながら実際に選挙が始まると、衆院選を控えた野党勢力のアピールが強まり、無所属選挙をしていた筆者としてもこれには辟易した。マスコミもそれを追従し、「与野党対決」のようなイメージを作り、エンタメ選挙として盛り上げようとした。
もちろん、野党勢力の政治戦略の裏事情など知らない有権者からは大変お叱りをいただいた。「本当に無所属なのか」「特定の政党色がちらつくぞ」と。
そのような状況は、筆者にも一時ダメージを与え、悩みの種となった。
そもそも筆者は最初から熊谷氏に、正直に「応援するにあたり、我孫子では特に政党色は控えていただきたい」と話していた。2019年1月我孫子市長選、筆者が出馬した同年4月の千葉県議会選挙において筆者は立憲民主党と熾烈な争いをしており、対戦した相手と同じ場所に立つことは連携する市長も、有権者も、後援会をも裏切ることになるだけでなく、自分の強い意志として批判が十八番の国政における立憲民主党とは思想もアクションもまるで異なる。
あくまでも「県民党」であり、支持してくれる勢力の排除はしないという選挙とはいえ、一部政党が前のめりになるのではないかと筆者は当初から危惧していたが、それが露骨に当たってしまったのだ。もちろん筆者としては、これまでの熊谷氏との信頼関係を信じ、そういったリスクを背負も覚悟の上と、後援会にも何度も説明をし、公平で開かれた県政実現のために支援を続けた。
結果としては、候補者本人の日々の情報発信、「県民党」という言葉が有権者に届いた。その影響力はこれまで本人が日頃の発信で培ってきた賜物であり、こうした時に大きな力となり、我々無所属を守ってくれる結果ともなった。
マイク納ではリスクを背負って応援した無所属議員へ最大限の感謝の気持ちを語った。マスコミが何を書こうと、本人がそう言っているのだ。そして、当確後の報道はどこもかしこも「与野党双方が支援した」「無党派層への支持が広がった」に変わった。結果で論調を変えるのも、選挙エンタメの特徴であることも忘れてはならない。
最後に今回の選挙を熊谷新知事チームとして支援した筆者からの蛇足である。
リーダーは決まった。しかし、これからは知事と県議会議員という立場だ。地方政治で政党の与野党構造もなければ、県議会での知事与党野党もあってはならない。これが持論だ。是々非々で一県議会議員として、新知事と県民に開かれた県政運営にあたってゆきたい。異色候補や選挙エンタメで千葉県政に興味を持っていただいた方、今度は政策や新知事の活動にも注目をしてほしい。
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