米国こそが「ならず者国家」-植草一秀

政治経済

植草一秀[経済評論家]

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3月2日の国連総会緊急特別会合における「ロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議」採択で、賛成した国は193ヵ国中141ヵ国。他方、非賛成は、反対5ヵ国、棄権35ヵ国、意思表示なし12ヵ国の合計52ヵ国。国の数では賛成が多いが、賛成、非賛成の国の人口合計では様相が逆転する。

*賛成国の人口合計は32.2億人。
*非賛成国の人口合計は45.3億人。

比率は賛成国41.5%に対し、非賛成国58.5%だ。

4月20日に米国のワシントンで開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議。米国はロシアを非難し、ロシアに対する経済制裁強化を決定することを目論んだ。しかし、G20は共同声明を発表できず、ロシア代表発言時の退席も米、英、加、豪の4ヵ国にとどまった。G20でロシアに対する経済政策に加わっている国は10ヵ国(EUを1ヵ国として)。経済制裁を実施していない国も10ヵ国。人口比では制裁参加国が9.0億人で19%であるのに対し、制裁非参加国が38.4億人で81%だった。

衰退する欧米と勃興する新興国。衰退する欧米が対ロシア制裁を行い、勃興する新興国が対ロシア制裁に加わっていない。紛争の解決のために武力を用いることは避けねばならない。この意味でロシアの行動は非難されねばならない。しかし、紛争の解決に武力を用いてきたのはロシアに限られていない。

紛争の解決に武力を用いてきた筆頭が米国である。米国は国連決議によらず、一方的な軍事侵略を繰り返してきた。アフガニスタン侵攻、イラク侵攻など、枚挙に暇がない。2003年に勃発したイラク戦争は米国による侵略戦争である。イラク戦争で虐殺されたイラクの民間人は10万人から100万人と推定されている。

ロシアの戦争犯罪が論議されているが、ロシアの戦争犯罪を論議するなら米国の戦争犯罪も論議する必要がある。また、ウクライナ戦乱におけるロシア軍の戦争犯罪を論じるなら、ウクライナ軍によるドンバス地方における戦争犯罪も論じる必要がある。

ウクライナ政府は2004年と2014年に転覆されている。米国が主導した政権転覆であると見られる。2014年政権転覆は米国がウクライナの極右勢力と結託して発生させた暴力革命による政権転覆だった。樹立された新政府に正統性がなかった。この非合法政府の樹立にウクライナ国内の親ロシア勢力が反発した。

[参考]<ウクライナ戦乱>三つの留意点-植草一秀

その結果として東部二地域で内戦が勃発した。他方、クリミアでは住民が住民投票によってロシアへの帰属を決定した。東部二地域で発生した内戦を収束するためにミンスク合意が締結された。2015年のミンスク2は国連安保理で決議され、国際法の地位を獲得した。

このミンスク合意2に東部二地域に対する自治権付与が定められた。ミンスク2が誠実に履行されていれば今回の戦乱は発生していない。ウクライナのゼレンスキー政権は米国と結託してミンスク合意を踏みにじり、ロシアに対する軍事挑発を続けた。米国はロシアが軍事行動に踏み切るように誘導した。相手に先に手を出させて、戦乱を発生させる手口は日米戦争と同じ。

米国はロシアを戦争に引きずり込んで、ウクライナを舞台にロシアを疲弊させることを目論んでいる。戦乱長期化、戦乱拡大で被害を蒙るのがウクライナの市民である一方、戦乱長期化、戦乱拡大で法外な利益を得るのが米国の軍産複合体。米国はロシアの戦争犯罪を訴えるが、戦争犯罪を裁く国際刑事裁判所の役割を否定し続けてきたのが他ならぬ米国である。

米国の「知の巨人」ノーム・チョムスキー氏が「ウクライナ戦争とアメリカの巨大な欺瞞」について語っている(https://bit.ly/3Oy5jEh)。じっくりと視聴されたく思う。チョムスキー氏は「米国こそがならず者国家である」と喝破している(チョムスキー氏動画39分06秒の発言)。

[植草一秀の公式ブログ『知られざる真実』はコチラ]

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