<なぜやめないの?>「視聴率が取れないテレビ番組」でも放送される理由
高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
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筆者が実力を認めている若いテレビ・ディレクターに言われて、ハッとしたことがある。
「この内容の番組じゃ絶対、数字(視聴率)取れませんよねえ」
扱う素材がそもそも、視聴率が取れないと言うのである。筆者も、30代40代の頃は、同じことを毎回会議で叫んでいたような気がする。年を経るに従って言わなくなって、60代の今は、滅多に言わない。否、全く言わなくなった。
「視聴率は確かなのか?」という議論をさておくと、「視聴率を取らなくてもいい」という考え方は、民放が営利企業である限り、存在しない。
テレビマンなら視聴率は取りたい。だが、ときどき、「この内容じゃ絶対、数字は取れない」と判断せざるを得ない番組が、ゴールデンタイム(19〜22時の3時間)や、プライムタイム(19〜23時の4時間)には存在する。繰り返すが、できが悪くて視聴率が取れないと判断される番組のことではない。
どういう番組がこれに当たるのか。まず、選挙速報である。これは、報道機関という側面もある民放では「やらなくてはならない」とかたくなに信じられている。
ただ、内容はどこも同工異曲だから、ありとあらゆる工夫をしても、視聴率は取れない。ビッグで、視聴率の取れる出演者をキャスティングしないと視聴率は取れない。
昔で言えば久米宏、ビートたけし。最近では、選挙速報に冷淡だったテレビ東京が衆院選挙の速報に池上彰さんを起用して成功した。安住アナは視聴率をとると思うが、この人はかたくなに選挙報道をやらない。
爆笑問題や、上田晋也の起用という考え方もあるが、これらの人々は選挙速報の主な視聴者である大人をはじいてしまうので当たらない。
批判覚悟で言うが、大災害や、大事故、大事件から「○○年」という番組も視聴率は期待できない。「○○周年」というのは、放送する側の事情で、当事者以外は、そんなことに思い入れがないからだ。高校生たちのカラオケルームに押しかけて「銀座の恋の物語」を歌っているような状態になる。
この場合、唯一視聴率を取るのは、「お涙ちょうだい」に走るか「誰も知らなかった驚愕の新事実」を前面に押し出せる時である。後者はよほどの覚悟を持ってずっと追いかけている人でもいない限り実現しない。しかし、民放にはその金銭的人的余裕がない。
地方局には、優秀なドキュメンタリストが多く、何らかの放送賞を受賞する番組も数あるが、こういう番組は、大抵地味だと判断されて土曜の午後あたりの時間帯でこっそり放送されてしまう。
視聴率は取れそうもないが、そういう番組をゴールデン、プライムで放送することになった時は、どうするのか。もちろん、第一優先事項は内容自体の強化である。自分が見たい番組を創っているかどうか再検討することである。
それだけで済めば制作者として、この上ないことである。しかし、テーマが高尚であったり、若い人には興味の薄い内容だったりする場合は、この措置は効果が限定的である(と思われている)。
後は、スタジオを派手にする、有名タレントを入れる、この手の番組は見ない「おんな・子ども・ヤンキー男」の耳目を少しでも引こうという努力が行われる。
スポーツイベントに有名タレントを起用するような場違いなことはやりたくないが、この努力は決して悪いことではない。筆者は、放送作家としてこの作業に40年近く腐心してきた。放送作家としても視聴率は欲しい。視聴率の取れない放送作家は使われなくなるからだ。
「視聴率の取れない番組はやめればいいのではないか」
と言う考え方もある。物販業なら売れない商品は生産を止める。だが、そうはならない。民放の経営トップは、他企業の経営者や、大株主や、番組審議委員に褒められたい。この人たちは、視聴率の取れているバラエティや、恋愛が主題のドラマを見ることは決してない。
「この内容の番組では、視聴率が取れない場合」
そんな時は、一体どうするのか? そうそう考えつかないので、今日は寝ることにして、明日の朝、考えることにしよう。・・・そんな毎日を繰り返しているテレビマンは筆者だけではあるまい。
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