<スタッフが作ったものを「佐野デザイン」?>東京五輪のエンブレムをデザインした亀倉雄策を冠した賞の受賞者・佐野研二郎氏の未熟さ


藤本貴之[東洋大学 准教授・博士(学術)/メディア学者]

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東京オリンピックのエンブレムの盗用疑惑に端を発し、その他のデザイン仕事でも複数の「盗用」と思われる疑惑が指摘されている佐野研二郎氏の問題。

サントリー社のキャンペーン「夏は昼からトート」の賞品であるトートバッグにも多くの盗用/トレースの疑惑が指摘された。8月13日付で、8つの賞品が佐野氏自身の申し出により取り下げられている。

佐野氏がトレースや盗用と疑われる点を認め、自身のホームページでも取り下げについての説明を掲載している。ようは、「デザインを担当したスタッフが無断でやったことで、自分が知らぬことだった。トレースなどは自分のデザイナーポリシーにも反する」ということが書いてある。

管理者としてのスタッフ教育の不十分さに責任を感じ、危機管理や著作権意識を高める契機したい、という方向性で収めようとしていることが分かる。しかし、前後の状況を見ると、なんとも不思議な状況も浮かび上がる。

まず、佐野氏本人の「取り下げの説明・釈明」から当該箇所を引用する。

今回のトートバッグの企画では、まずは私の方で、ビーチやトラベルという方向性で夏を連想させるコンセプトを打ち立てました。次に、そのコンセプトに従って各デザイナーにデザインや素材を作成してもらい、私の指示に基づいてラフデザインを含めて、約60個のデザインをレイアウトする作業を行ってもらいました。その一連の過程においてスタッフの者から特に報告がなかったこともあり、私としては渡されたデザインが第三者のデザインをトレースしたものとは想像すらしていませんでした。(以上、http://www.mr-design.jp/ より引用)

確かに、これだけを読むと、管理者としての不行き届きを反省してはいるものの、管理責任こそあれ、実際に盗作実務に携わったわけではない、と弁明している。では、100歩譲ってその主張を受け入れたとしよう。

すると、実はもう一つ別の問題点が浮かび上がる。

サントリーのキャンペーン・ホームページには、「佐野研二郎デザイン」と大きく明記してある。しかし、本人は「デザインをしたのはスタッフ」と釈明している。では、「佐野研二郎デザイン」というこの賞品は一体なんだったのか?

「佐野研二郎デザイン」と明記されている場合と、無記名の賞品とでは意味合いは異なる。やはり、今回のキャンペーン賞品とは、サントリーとしても少なからず「佐野研二郎デザイン」を売りにしていたはずである。にもかかわらず、今回のキャンペーン賞品は「佐野研二郎デザイン」ではなく、「佐野研二郎の事務所のスタッフによるデザイン」だったのである。

もちろん、チームによるデザインや組織的なデザイン活動をすることはある。有名デザイナーなどであればライセンス販売も含めて、よくあることかもしれない。しかし、今回はブランド名や会社名ではなく「佐野研二郎」個人の名前になっている。よって今回のような場合であれば、「佐野研二郎プロデュース」などの表記が妥当だったのではないか。

今回の問題は、ゴーストライターを利用して作曲をしていた佐村河内守氏の一件とも重なる。佐村河内氏の役割は、実質的な作曲者である新垣隆氏に対してのプロデュース業務、演出担当であった。つまり「プロデューサー」というポジションが妥当であり、それを単独の作曲物として発表していたことに虚偽性があった、という判断だろう。

佐野氏の「スタッフがデザイン」という主張を受け入れるとすれば、「佐野研二郎デザイン」ではなく「プロデュース」とすべきではなかったのか。そうでなければ、もしかすると「景品表示法に違反するのではないか?」とさえ思われる。いづれにせよ、クエリエイターとしては「部下のトレースに気づかなかった」こと以上に未熟であると感じずにはいられない。

今回のキャンペーン賞品は該当飲料を購入し、それに付いている点数シールを「48点」集めることで賞品をもらうことができる。点数は350ml缶で「1点」、500ml缶で「2点」だ。つまり、350mlの缶飲料を48本を飲むことでもらえる景品。つまり、けっこう頑張らなければもらえない賞品なのだ。

にもかかわらず、「佐野プロデュース」を「佐野デザイン」と表記していたのであれば、消費者を欺く行為であり、トレースや盗用と同じぐらいその責任は重い。

日本の多くの「プロのデザイナー」が「公益社団法人・日本グラフィックデザイナー協会」(JAGDA)という職能団体に属している。会員数約3000人という日本最大のデザイナー組織でもある。筆者も会員なのだが、佐野研二郎氏ももちろん会員だ。

その佐野氏は本年度2月に、JAGDA初代会長の亀倉雄策(1915〜1997)の名を冠した「第17回亀倉雄策賞」を受賞した。亀倉雄策といえば、前回の東京オリンピックのポスターやエンブレムをデザインしたことでも有名だ。

奇しくも佐野氏は、第17回亀倉雄策賞の「受賞のことば」として次のように書いている。

「亀倉雄策の仕事で一番好きなのは1964年の東京オリンピックのエンブレムだ。シンプルで力強く、唯一無二のデザイン。いつの日かこのようなシンプルで骨太な仕事がしてみたい、と思うようになった。ニッポンを、世界を、あっといわせる仕事。一生に一度でいいからそういうデザインをしてみたい。」

いうまでもなく、佐野氏は2020年東京オリンピックのエンブレム仕事で、日本と世界を「あっ」と言わせている。

 

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藤本貴之(ふじもと・たかゆき) 東洋大学総合情報学部・准教授(情報デザイン論・メディア構造論)/北陸先端科学技術大学院大学・教育連携客員准教授/藤本情報デザイン事務所・執行役員/JAGDA正会員/最先端のメディア研究・メディア技術の知見から、アカデミズムの枠を超え、企業や自治体などを対象としたメディア設計や情報発信戦略など、数々の実践的なプロジェクトを手がけている。主な著書に『情報デザインの想像力』『脳にアイデアを思いつかせる技術(講談社)』『映像メディアのプロになる!(河出書房新社)』など、多数。