<パクリ企業の謎>世界一有名な無名デザイナー三宅順也って誰?

社会・メディア

藤本貴之[東洋大学 教授・博士(学術)/メディア学者]

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先日、筆者は新刊『パクリの技法』(https://amzn.to/2Dtnesa)を上梓し、おかげさまで方々から反響や意見を多数頂いた。その中でも多かったものが、「日本風中国ブランド『メイソウ(MINISO)』」についての質問である。メイソウの問題点については、本書では言及していないので、改めて考えてみたい。

海外に行き、多くの外国人が集まる観光地や大きなショッピングモールなどに行くと、非常に高い確率で存在するのが「日本品質」を売りにした「メイソウ(MINISO)」なる雑貨屋だ。

大都市圏だけでなく中堅都市にも意外と出店しているので、海外展開している「ユニクロ」や「無印良品」よりも目にする機会は多い印象だ。それもそのはず、メイソウは世界で約2000店舗(内、日本7店舗)。その数はユニクロの世界店舗数2127店舗(内、日本832店舗)と比べても遜色のない水準だ。日本以外の店舗数でいえば、メイソウの方がユニクロよりも多い。

しかし、この「メイソウ」は日本とは無関係の、名実ともに世界でもっとも成功している「パクリ企業」の一つである。

その看板やロゴは、遠目に見れば日本の「無印良品」や「ユニクロ」と見間違うほど似ている。「ダイソー」のミニ版(MINISO)のような印象もある。商品には日本語の説明が付されている。「無印良品」「ユニクロ」「ダイソー」などの別レーベルのようにも感じるが、それらとは全く関係ない中国資本の会社である。つまり、中国発「日本風の雑貨屋」というわけだ。発売元として銀座に本店を構える「株式会社名創優品産業」なる会社が記載されているので、「フロム・ジャパン」を売りにした設計としては芸も細かい。

もちろん、外国の文化をパクり、カスタマイズして自国化したもので世界を席巻することは多く、また悪いこととも言い切れない。世界最大の中華料理チェーン「Panda Express」は中華風アメリカ料理だし、海外でも大人気の「日本のラーメン」ももとは中華料理である。「日本の焼肉」として海外進出をしている「牛角」だって、朝鮮料理が日本で「焼肉」として成長し、それが「日本の焼肉(=朝鮮風日本料理)」としてブランド化されている。

では、「メイソウ」もそれと同じではないか? と感じるかもしれない。

しかし、これに関しては明確に「ノー」である。むしろ、いわゆる「パクリ商法」とは質を異にする非常に悪質な事例であるように感じる。誤解を恐れずに書いてしまえば、日本クオリティや信頼性を悪用した、国や価値観を超えた「文化破壊」、ものづくりへの「冒涜」である。

まず、中国企業「メイソウ」のパクリ商法自体は、それだけを取り上げて「パクリだ、盗用だ、著作権侵害だ」と騒ぎ回るようなことではない。良いことではないものの、よくあることであるし、過去(もちろん現在でも)を見れば、世界中の国や企業が(日本を含め)、パクりパクられを繰り返し、それがいつの間にやら「本物」へと成長している事例は多い。

よって、「メイソウ」の悪質性の理由はそこではない。

悪質さのポイントは「三宅順也」なる人物の存在だ。誰?と感じる人も多いだろうが、おそらく世界的にはもっとも顔の知られている「日本人デザイナー」である。なぜなら、世界2000店舗の「メイソウ」に行けば、必ず彼の写真が必ず大きく掲げられているからだ。(画像参照*著者撮影)

もっとも、名前と顔は知られているが、彼がどんなデザイナーであり、どんな実績を持っているのかは誰も知らない。「Junya Miyake」が本名なのか、ビジネスネームなのかも不明だ。「三宅順也」とは、いわば「世界一有名な無名デザイナー」だ。

「三宅順也は、世界的なグッドライフグッズトレンドのトップランナー。多くの世界的にも有名なブランドのデザインを担当。ジャパンデザイナーブランドMINISO名創優品グローバル共同創始者/チーフデザイナーである。」

・・・と、MINISOのホームページにはある。メイソウの共同創業者であるそうだが、それ以外のことはよくわからない。商品のデザインに関わっているのか、いないのか。日本品質を打ち出すためだけに利用されている「デザイナー風モデル」なのか、詳細は不明だ。ただし、「三宅順也」が本物の有名デザイナーでも、世界的デザイナーでもないことは明らかだ。

つまり、「三宅順也」がやっていることは、「無名の一般人を、日本を代表するデザイナーであるように見せて売り出すこと」である。その背景にあるのは日本品質への信頼性だ。それが中国企業メイソウによる指示なのか、自分の意思でやっていることなのかはわからないが、彼が「著名日本人デザイナー」を標榜していることは、あきらかに誇大広告である。

そればかりではない。彼が本当に日本人だとすれば、日本クオリティの信頼性を日本人が揺るがすことになりかねず、国際的な日本のブランド力の低下にもつながる。「三宅順也」のような成功事例を作ることは、本物のデザイナーを目指している人たち、あるいは本物のブランドを作るために頑張っている企業からすれば、創作意欲を失わせかねない。

パクリが悪いわけではない。そのことは拙著『パクリの技法』(https://amzn.to/2Dtnesa)でも繰り返し説明しているので、ご一読いただきたいが、パクリを悪用した「三宅順也」のようなケースは、日本ブランドは言うまでもなく、人類文化への挑戦とも感じる大きな問題であると思う。

 

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