なぜ「Dr.倫太郎」の制作者は「視力低下」を「心因性視力障害」にしたがるのか?
高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事/社会臨床学会会員]
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筆者は「Dr.倫太郎」(日本テレビ)を1回目からずっと見ているが、6月3日放送の8回目が最も面白かった。それは、中に挿入される挿話が、精神疾患ではなく視力障害だからである。
・・・と、書きたかったのだが、話の続きを見ると心因性視力障害だという。プロデューサーはどうしても精神疾患にしたかったようだ。
心因性視力障害は子どもに多く見られる疾患で、強いストレスがかかると発症する。これによる視力低下はめがねによっては矯正されない。ドラマ上、心因性視力障害になるのは、天才脳外科医の蓮見医師である(松重豊)。
蓮見は理事長から、政治家の息子に発症した脳腫瘍の手術を命じられるものの、視力が衰えているために手術が出来ないことを言い出せない。さあ、どうなる? 「言えばいいのに」と筆者は純粋に思う。
さて、そんな挿話であるから、別に心因性である必要はないのに心因性なのである。心因性が好きだとしか思えない。
今回は重要な点が2つある。
ひとつは台詞(セリフ)。助手についた水島医師のお陰で、脳腫瘍摘出手術成功した蓮見医師が倫太郎にかける次のような言葉だ。
蓮見「日野先生はそう思わないかも知れないが、心は脳にあるんです」
日野「僕も、そう思います」
蓮見のこの発言は、精神分析家である日野倫太郎に最大限、気を使った発言である。台詞は以下の意味まで含んでいる
「心の病気を脳の機能の失調であるとして、外科的になおしたり、薬学的になおしたりすることをしないで、多くを心因性だととらえる精神分析家の日野先生に申しあげますが、心は脳にあるんですよ」
これに対して倫太郎の答えた「僕もそう思います」はつぎのように解釈できる。
「これだけ、脳科学が発達してくると心は脳にあるというのはもう否定できない。ただ、失恋したとき痛いのは脳じゃなくて胸だけど」
と言うようなものなのである。
ところで今回のドラマでもうひとつ大事なのは告知である。
「ドラマの原作本『セラピューイック・ラブ』をプレゼントします」
という告知だ。筆者は、この原案小説をすでに読んでいるが、ドラマの方が10倍おもしろいです。
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