ガラパゴス化した日本のコントは世界から消えるのか?

エンタメ・芸能

高橋秀樹[放送作家/発達障害研究者]

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韓国のBTSのような、世界で活躍する音楽のスターが日本で生まれないのは一体何故か。この答えは簡単である。韓国のエンタテインメント界と日本のそれとでは、目指すところが違うからである。映画やドラマもまた然り。

韓国は世界を目指しており、日本は国内で満足している。その違いがハッキリ出た結果が、彼我(ひが)にもたらされたからである。

韓国の人口は4000万人、北朝鮮の2000万人と合わせてもハングル人口は6000万人である。一方、日本の人口は1億2000万人。6000万人の客を相手にしていては多くの実りを得ることのできないことを悟った韓国は飛躍を目指して世界を狙った。日本は1億2000万人を相手にしていれば十分儲けられるから、エンタメは楽な内需を取り込もうとだけしてしまった。その差である。

韓国のエンタメ界も当初(この時期を朝鮮戦争休戦後の1953年頃)から、世界を目指していたわけではない。その証拠に当初、韓国には日本のテレビ番組のパクリと言えるものが横行した。日本のテレビ番組もアメリカを模倣したが、その模倣の仕方が優れていた。

しかし、うさぎが安穏と寝ているうちに、カメはあっという間に力をつけた。その結実がBTSであり、日本のファンを引きつける『愛の不時着』を始めとする韓国ドラマであり。アカデミー賞を獲得した映画『パラサイト 半地下の家族』(ポン・ジュノ監督)なのである。

韓国は如何にして世界を目指すことができたのか。以下、「田代親世の観光エンタメナビゲート」から要約引用して説明しよう。

ひとつは演者の基礎教育である。1987年、国のお墨付きを得て俳優養成所「韓国放送文化院」を設立した。現在活躍している演者の殆どがここの出身のため「芸能人士官学校」とも呼ばれているそうだ。さらに芸能プロダクションを設置して養成と仕事の斡旋も行い、いわゆる学生たちの出口を作った。

何を教えるのか。理論ではなく、いわゆる実践である。

*台詞を読んで演技にあったようにしゃべる。

*実際の台本とカメラを持ってきて対カメラで演じる。

*日本とは違い強烈で過激な演技。

200人の入学者があったとして最後まで終えるのは4分の1程度。4年制の大学のうち20校に映画・演劇学科がある。競争率は20倍から30倍だという。(以上、要約引用)

こうした積み重ねが要素の一つとなって、日本を抜き去っていった。さて、筆者の専門であるコントでは日本の現状はどうだろう。今、目についてコント番組が増えている。「コント冬の時代」が長かったことを思うと、これは嬉しいことだ。

孤高とも言えた『LIFE!〜人生に捧げるコント〜』(NHK)を筆頭に、新番組系の『笑う心臓』(日本テレビ)『キングオブコントの会』(TBS)、『ただ今、コント中。』(フジ)、『新しいカギ』(フジ)、忘れてはならない老舗『よしもと新喜劇』(毎日放送)・・・etc。

ここで時代を遡る。

コントが冬の時代だった時代、テレビマンたちは皆「作り物よりマジのほうが笑えるから、コントはリアルに叶わない」と思っていた。バラエティ番組は次々と、リアリティショーになった。ここでいうリアリティショーとは、事前の台本がない、現実に起こっている予測不可能で困難な状況に、よく知られたプロの俳優などではない一般人出演者たち(無名の芸能人なども含む)が直面するありさまを、ドキュメンタリーやドラマのように楽しめると謳ったテレビ番組のことである。

日本のように恋愛覗き見番組だけをさすのではない。「よく知られたプロの俳優などではない」とあるが、日本では、よく知られたプロの俳優も出るくらい蔓延した。で、コント番組は激減した。『8時だョ!全員集合』(1985年終了)、『欽ドン』(1983年終了)、『オレたちひょうきん族』(1989年終了)が終わってからは惨憺たる状況になった。それから32年である。コントは復活するのか。

[参考]日本テレビ・ドラマ『コントが始まる』の劇中コントはどうなるのが良いか考える。

近年の復活にはメディアの変化という後押しがある。地上波だけではテレビメディアはもう生きていけない時代だ。各テレビ局が収益のために配信用のコンテンツとしてコントを作る機運が盛り上がっている。ということは、いよいよコントを先鋒として、日本のエンタメが世界を狙い始めたのかと思いたいが、そうでもないことを僕は強く感じるのである。狙っているのはまだまだ、1億2000万人の狭い日本のターゲットである。

各コント番組を見ていく。

『LIFE!〜人生に捧げるコント〜』(NHK)は、おもしろそうなことと、面白いことを履き違えている。レギュラーに塚地武雅、田中直樹といったコメディアン。ムロツヨシ、中川大志といった俳優と芝居のきちんとデキる人がおり、さらに、さすがNHK。星野源、吉田羊ともさかりえ、綾瀬はるか、鈴木京香、竹中直人、鈴木亮平、國村隼、深田恭子、黒木華、二宮和也、佐藤健、永野芽郁、玉木宏、杉咲花、広瀬すず、吉沢亮、木村多江、上白石萌歌山之内すず、小林聡、美広瀬すず、上白石萌歌など花のような俳優陣をゲストに揃えているのにキャラクター設定が生かされておらず、笑えない。

これは脚本と演出家のせいである。俳優には、役に自分を寄せる憑依型(例・大竹しのぶ)と、役を自分に寄せる取り込み型(例・木村拓哉)がいるが、その区別さえ付いていないと思える。なぜ、コントには芝居の上手さが必要なのか。「コントは凝縮された劇」だからである。不条理なコントでも、日常のずれたおかしさを狙うコントでも、SFのコントでも、それは皆同じ。繰り返すが「コントは凝縮された劇」なのである。

その点で『笑う心臓』(日本テレビ)は、興味深かった。マヂカルラブリーの野田クリスタルが書き下ろしたコント『魔界バスケ』は、コントとしては結構な予算をかけて、魔界のセットを作っていた。だが、CGなどゲームや映画で優れた美術を見慣れたものには、ペラペラのベニヤセットにしか見えない。そこで、下手な芝居で演じられると、マイナスが重なってしまい非常にしらける。舞台なら、そもそもセットをモニュメントとして扱い、空舞台でやる方法もあるわけで考えたほうがいい。

筆者の好きな空気階段の鈴木もぐらと水川かたまりが出ていた。デブのもぐらがイケメンアバターをモーションピクチャアで演じていると、そこに借金取りが来て…のコント、面白い。面白いのにシソンヌのじろうがツッコミのつもりなのだろうか解説を入れてしまう。必要がない。かえって面白さを邪魔にする。大阪の人はコントでよく喋るが本当に必要かよく考えて欲しい。騒ぐ修学旅行生と監視の先生による出入りコント。これまで何千回と演じられてきたありきたり中のありきたりの出入り(ではいり)に分類されるコントだたっが。このコントを笑えるように演じられたら実力も本物である。

『キングオブコントの会』(TBS)やはり、松本の発想とコントにおける芝居の実力は図抜けている。とくに松本人志・バイきんぐ小峠の「管理人」は、きちんと「凝縮された劇」になっていて素晴らしい。ただ松本にとって残念なのは最強の相手役がコントに興味を失っていることだ。出演しなかった浜田雅功である。

[参考]松本人志主宰『キングオブコントの会』世帯視聴率6.8%の素晴らしさ

『ただ今、コント中。』(フジ)はコントよりしゃべる異の人を集めてしまったのが残念だ。サンドウィッチマン、バイきんぐ、かまいたちほか。彼らのやっているのはコントに見えることもあるが、むしろ朗読劇である。動きが小さいのが残念だ。

一方『新しいカギ』(フジ)の方は、動く芝居のできる人を集めた。レギュラーにチョコレートプラネット(長田庄平・松尾駿)霜降り明星(せいや・粗品)ハナコ(菊田竜大・秋山寛貴・岡部大)、せいやが喋りだけでなく動きの芝居ができることがわかった。強力な武器になる。

老舗『よしもと新喜劇』(毎日放送)が偉いのは客前でやっていることである。客前でやるとどこが受けていて、どこが受けていないかがよくわかる。昨日受けたところが今日受けないのは何故か考えることができる。相手役によって受けが変わるのが発見できる。それがコント役者を鍛える。究極を言えばコント役者は客前でしか鍛えられないかもしれない。それを毎日やっている人々だ。

新しいコント番組も客前でやってみればどうか。シットコムのような形でも良い。撮りおえて編集が上がったものを試写室で客に見せても良い。スタッフ笑いが嘘だということがよくわかるだろう。コロナだからできないと言ったテレビ局は敗北するだろう。カネがかかるから無理と言ったテレビ局も退場せざるを得ないだろう。世界配信ができればどんどん金が入ってくる。それを狙っているのだったら、ここは投資が必要だ。

それから、作家の書いたコントをやってみることだ。それはおそらく演者のやりやすいようには書かれていないだろう。自分がやりやすいコントばかりやっていると役者としての幅がなくなる。

さて、こうしたコント番組全盛の中で、世界に伍していくコンテンツを作るために、起用されていない芸人がまだまだいる、岩崎う大、槙尾ユウスケのかもめんたる。芝居もできるし、岩崎の書くコントも優れている。中野周平とイワクラ(美里・女性)の蛙亭、独自の世界観を岩倉が作る。彼らの起用法で難しいのは、今の所、蛙亭はコンビでやるコントが最も面白いことだ、他の芸人と組んでやるコント番組でも彼らは二人で演るコーナーを持ち続けると良いかもしれない。

それから、もうベテランだが、インパルスの板倉俊之。彼の書くコント脚本と演出力が欲しい。芸人だげでなく、劇団にも素晴らしいコントを作るグループが居る。東京ヴォードヴィルショウの大森ヒロシや山口良一を中心に結成されたユニット「大森カンパニー」。彼らは客前でいつも鍛えているし。自分たちがやりやすいように書いた自作コントだけでなく、作家の書いたコントにもチャレンジしている。彼らのコント「一分前に戻れるタイムマシン」を見て欲しい。これは世界配信レベルです。彼らの力を借りればコントに必要な女性役もキャスティングできる。男の芸人が演じる女形は汚くて世界の人は見てくれません。

このままだとコントは、人形浄瑠璃や歌舞伎や能・狂言のように伝統芸能になってしまいまうのではないかとの危惧を抱きながら。

 

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