<五輪エンブレム再公募の6つの方法>デザイナーコミュニティのコンテストから誰もが楽しめるイベントに


藤本貴之[東洋大学 准教授・博士(学術)]

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「再公募」ということで振り出しに戻った東京五輪エンブレム騒動。これ以上の疑惑を避けるためにも、再公募には「透明性」もさることながら、一般国民にも「わかりやすい選考の仕組み」が強く求められる。

デザイン業界の専門家による評価やクオリティ維持以上に、何よりも、世界中の人から「愛される」ことが重要だ。そのためには、選考過程・手法や選考委員の人選も含めて、誰にでも「理解されること」を目指さなければならない。

少なくとも、今回の騒動が極限まで炎上した背景には「プロのデザイナーには理解できるが、一般国民には受け入れられなかった」という、本来のオリンピックの意義や理念とは懸け離れた選考思想とその過程にあった。

以下の7賞のうち2つ以上を受賞していること、というピンポイントな「応募条件」は、結果として世界中の多くの才能の参加を排除する仕組みになってしまった。(佐野研二郎氏は全ての賞を受賞)

  • 東京ADC賞(東京アートディレクターズクラブ:会長・細谷巖)
  • TDC賞(東京タイプディレクターズクラブ:理事長・浅葉克己)
  • JAGDA新人賞(日本グラフィックデザイナー協会:会長・浅葉克己)
  • 亀倉雄策賞(日本グラフィックデザイナー協会:会長・浅葉克己)
  • ニューヨークADC賞(海外・アメリカ)
  • D&AD賞(海外・イギリス)
  • ONE SHOW DESIGN(海外・アメリカ)

組織委員会は、再公募では応募条件の緩和を表明しているが、どの程度までの「緩和」となるのか。誰でもが応募できる「完全公募」になるのか、その発表に注目したい。

さて、再公募するにあたり考えうる方法のパターンを出してみた。他にもあるだろうが、これまでの「炎上要素」を一つ一つ潰すという方法で案出した。

まず第一に、再評価を高めている「招致エンブレム」の利活用が考えられる。もちろん、「規定」により招致委員会が作成した招致エンブレムをそのまま使うことはできない。規約の変更や「特例」といったことも考えられるが、国際オリンピック委員会(IOC)という「親会社」がいる以上、現実的ではないだろう。

それを考慮した上で、筆者なりに考えられる公募方法は、以下の2手法6パターンだ。

<1>招致エンブレムのリメイク

(1-1)前回コンペに応募した104名のデザイナーを対象にリメイク案を募集。

(1-2)厳しすぎない一定の基準(プロ実績を持つ、年齢等)を設け、リメイク案を公募。

(1-3)一切の条件を設けずにリメイク案を公募。

<2>まったく新たに制作

(2-1)前回コンペに応募した103個のデザイン案から再チャレンジを募る。

(2-2)厳しすぎない一定の基準(プロ実績を持つ等)を設け、デザイン案を公募。

(2-3)一切の条件を設けずにデザイン案を公募。

招致エンブレムは利用できないが、「そのまま」ではなく、まったく新しい(新鮮な)デザインへと進化(リメイク)させることでIOCへの対応は可能であるように思う。むしろ、招致活動からの流れや繋がりも生まれて良いのではないか。

また、一切の条件をつけずに再公募をした場合の応募数であるが、北京五輪の場合は約1万件、現在進行しているニュージーランドの国旗デザインの公募が約1万件である。東京五輪でも1万件程度ではないかと推察できる。これは十分に審査が可能な数なのであろう。

もちろん、選考過程を可視化し、「審査委員の顔が見える選考」を実現することも不可欠だ。規約上、「発表まで機密」であるにせよ、その進行状況や状況を、審査委員たちが自分たちの名前を出して、文章や口頭で随時発表してゆくことで、不透明感や陰謀論も減少できるはずだ。

そのためにも、審査委員/選考手法には以下にような条件があれば望ましいと考える。

  • 審査委員にはデザイン業界の専門家と同数以上の異分野の専門家・学識経験者・広く知られている著名人等を加える。

疑惑が高まり、汚れてしまった現状においては、審査委員をどう選ぶか、ということも透明性を出す上で大きな要件となる。上記以外でもインターネットで手軽に投票できる自薦・他薦を問わない候補者の推薦なども受け付ける「推薦枠」の設置も考えられる。

  • 審査委員に年齢制限を加える。(例:65歳上限など)

新しい感性と技法やアイデアに十分な理解がある、ということだけでなく、重鎮が揃うことで発生する若い審査委員たちの萎縮を防ぐことができる。

  • デザイン担当者の氏名はオリンピック終了まで公開しない。

五輪エンブレム公募は「優秀なデザイナー」を選ぶコンテストではない。オリンピックを盛り上げる象徴としてのエンブレムの本来の意味から見れば、デザイナーの名前はデザイン業界以外の人にとっては、あまり意味を持たない。もちろん、複数人での合作でも良いはずだ。

なお、筆者が個人的に良いと思っているプランは「(1-3)一切の条件を設けずにリメイク案を公募」だ。招致エンブレムは、すでに国民に広く受け入れられ、愛されているという「ベース」があるため、そこから想像力を膨らませることは様々に可能だし、アイデアも生み出しやすいだろう。

もちろん、小学生などが稚拙な手書きで描いたアイデアでも、魅力的であれば、採用後にプロが清書すれば良いだけのことだ。五輪エンブレムの審査会は「デザインテクニック」の競い合いではないのだ。

筆者の考えにも異論や問題点、抜け穴は多いと思う。しかしまず何よりも、あまりにも後ろ向きになってしまった東京オリンピックの悪評を払拭し、誰もが楽しめ、そして前向きに盛り上がることができる体制を作ることが先決だ。

エンブレム選びも、デザイナーコミュニティのコンテストではなく、国民誰もが楽しめる事前イベントの一つとして盛り上げなければならない。そのアイデアと責務が組織委員会には求められる。公募手法の発表に期待したい。

 

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藤本貴之(ふじもと・たかゆき) 東洋大学総合情報学部・准教授(情報デザイン論・メディア構造論)/北陸先端科学技術大学院大学・教育連携客員准教授/藤本情報デザイン事務所・執行役員/JAGDA正会員/最先端のメディア研究・メディア技術の知見から、アカデミズムの枠を超え、企業や自治体などを対象としたメディア設計や情報発信戦略など、数々の実践的なプロジェクトを手がけている。主な著書に『情報デザインの想像力』『脳にアイデアを思いつかせる技術(講談社)』『映像メディアのプロになる!(河出書房新社)』など、多数。