<これからも大和魂を貫いて参ります>関脇在位14場所にして大関昇進を果たした豪栄道の口上

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北出幸一[相撲記者・元NHK宇都宮放送局長]

 
大相撲名古屋場所終了後に関脇・豪栄道が大関に昇進した。
夏場所は8勝7敗という平凡な成績だった豪栄道は名古屋場所の前に相撲協会内部で大関昇進は話題にならなかった。その雰囲気を一変させたのは、豪栄道が鶴竜、白鵬と横綱を立て続けに破って名古屋場所最終盤に優勝争いに割って入ったからだ。
審判部の議論で千秋楽の取組で大関・琴奨菊に勝てば昇進という話になり、豪栄道本人は取組前に師匠の境川親方(元小結・両国)から勝てば大関昇進を知らされた。
名古屋場所で関脇在位14場所連続という昭和以降単独1位の余り名誉とはいえない記録を作ってしまった豪栄道。力のある力士はもっと早く大関に昇進してしまうので関脇の在位期間は短い。
豪栄道は場所前に話題にならなかったことから、大関昇進のプレッシャーに悩まされることなく相撲を取り続け、千秋楽に突然降ってわいたような乾坤一擲のチャンス、幸運を見事にものにした。直前の3場所で33勝という大関昇進の目安に1勝足りなくても、相撲協会は「まだ強くなれる」という期待値も込めて昇進を決定した。
大関昇進の伝達式が行われた7月30日に、私は真夏の暑さが続いていた愛知県扶桑町の境川部屋を訪ねた。10数年ぶりに戻った相撲取材の現場で最初の本場所取材から大関昇進という記念すべき取材を行うことが出来た。
後援者が集まり、大きな鯛も届くという見慣れた昇進直前の風景に懐かしさを感じていた。私が現場の記者として昇進の取材をしたのは北勝海(現・八角親方)や大乃国(現・芝田山親方)、旭富士(現・伊勢ケ濱親方)の横綱昇進以来だった。
古い話はさておき、豪栄道の大関昇進を伝える使者として一門の出来山理事と大鳴戸審判委員が到着した場面に話を戻そう。
紋付袴姿の正装で師匠の境川親方夫妻と使者を待っていた豪栄道、日本相撲協会広報部長を務める出来山理事が「本日の理事会で、関脇・豪栄道を全会一致で大関に推挙されたことをご報告します」と述べると、はっきりとした大きな声で「謹んでお受けいたします。これからも大和魂を貫いて参ります。本日は誠にありがとうございました」と堂々とした口上を述べた。
豪栄道はその後の記者会見で大関になった心境を訊かれて「きょうから気を引き締めて大関という日々を精一杯やってゆく。責任ある行動を取ってゆく」とひとこと、ひとことかみしめるように答えた。
そして口上に込めた思いを訊かれて「日本人の我慢強さや潔さなど色んな意味がこの言葉にこもっているので選んだ。そういう精神で相撲をやってきた。自分自身に大和魂が一番必要だと思う」と言った。
過去の大関昇進の際の口上の代表的な言葉を紹介しよう。貴ノ花は「不撓不屈の精神で相撲道に精進します」と答え、兄の若ノ花は「一意専心の気持ちを忘れず」と言った。貴ノ浪も「勇往邁進」という言葉を使い、当時の二子山部屋の力士は四字熟語を好んで使った。
今のモンゴルの3横綱の大関昇進時の口上を見ると、白鵬は「大関の地位を汚さぬよう、全身全霊をかけて努力します」、日馬富士は「今後も全身全霊で相撲道に精進します」、そして鶴竜は「お客様によろこんでもらえるような相撲が取れるように努力します」だった。
選んだ言葉は違っても、それぞれの力士の、その時の決意を一番ふさわしく表現していると思う。口上というからには皆、まさに“向上”したい、よくなりたいという決意が込められている。
豪栄道の選んだ大和魂、本人が言うように豪栄道自身に一番必要なもの。モンゴル力士全盛といわれる今の相撲界で、日本人の大関として一歩も引かず全力で相撲を取るんだという潔い決意を伝える言葉。
幸運を見事にものにして大関昇進を果たした豪栄道、大和魂を貫く秋場所の土俵が楽しみである。
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