<ボートレースはギャンブルではない?>故・笹川良一日本船舶振興会会長は、競艇ファンのお金を預かっていた


高橋秀樹[放送作家]

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日本船舶振興会の故・笹川良一会長(1899年・明治32年生まれ)は、競艇ファンにとって愛憎含めて、根強い人気のある存在だった。そんな笹川会長が精力的に全国の競艇場を視察している時期があった。

筆者が、浜名湖競艇場の特別観覧席(入場料2000円)にいた時に、笹川会長がやってくるということがあった。その時は、どこからともなく、「笹川会長は専任のコックを連れて全国を回っていて自分専用につくらせた朝食を食べるのだ」という噂が聞こえてきた。

場内のカレーや煮込み、焼き鳥を出す小さな飯屋はどれもうまいが、仕出し業者が運営する特別観覧席内の食堂は、どこもまずく、それでコックを連れてくるのだろうという話も聞こえてきた。

競走が始まる1時間前くらいであった。場内は既にいっぱいである。ファンが早く来るのは朝練習を観察して目当ての選手の船足を見たいからである。競艇ファンは勤勉なのである。その数は1万人以上。

ホームストレートの中央に組まれた水上ステージに、笹川会長がゆっくりした足取りで登場した。会場から地響きのような歓声が上がった。歓声を上げているのはほとんどが中年男である。どす黒く汚れた歓声。擬音にしたら、「グヴォウ」というような音である。

笹川会長はすり足のように歩を進め、スタンドマイクの前に立つ。一瞬、しんとなる。

地方にある競艇場は、周年記念競走などのグレードの高いレースが行われるときに、ファンサービスのために、よく芸能人を呼んでショウをやる。やる時刻は競走が始まる前の9時頃。この時だけは客には赤やピンクの服、紫や緑の髪の人が混じる。何しろ入場するだけなら50円、100円はするライターもおまけにもらって「細川たかしショウ」などが見物できるのである。おばさんが見逃すはずはない。

しかし、そんな芸能人たちのショウと笹川会長とでは格が違うことを思い知らされる。マイクの前に進み出た笹川会長は、咳払い一つせず、だみ声だがよく通る声で呼びかける。

「ファンの諸君(…間…)、諸君らが、競艇で使った金はなくなったのではない(…間…)、わたくしが、私が預かっているだけなのである」

タイミングを外さず、ファンから野次が飛ぶ。

「だったら、返せー」

場内大爆笑。 笹川会長は続ける。

「預かった金はどんどん取り返してもらって結構だし、取り返したくないという方の金は私が有益に使って差し上げる」

ロサンゼルス・オリンピックで人間ロケットを飛ばしたのも、天然痘を撲滅したのも、人類皆兄弟というCMを流したのも、私が預けた金があったからこそなのだ、と、ちょっと胸を張りたくなる。競艇ファンでよかった、笹川会長はいい人だ・・・と思えなくもない。

笹川会長の次男は笹川堯自由民主党・元衆議院議員。三男は笹川陽平元全国モーターボート競走会連合会副会長で日本財団(笹川財団)会長である。長男の笹川勝正氏はどうしていらっしゃるのだろう。

国会議員とモーターボート事業は、どっちが魅力的なのだろう。 その日、筆者がもらった100円ライターは20万円の価値があるライターに変身したわけだが。

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