安倍晋三首相:米議会上下両院合同会議の演説は「スピーチライター・谷口智彦氏」の存在に注目したい

社会・メディア

岩崎未都里[学芸員・美術教諭]
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安倍晋三首相の米議会上下両院合同会議の演説が話題になっていますが、注目すべきは演説の内容そのものよりは、原稿のスピーチライターである内閣官房内閣審議官の谷口智彦氏の存在です。
谷口氏は、「日経ビジネス」の記者出身で2013年2月より第二次安部政権にて現職に就任しています。ちなみに東京オリンピック招致の原動力となったプレゼンテーションも彼が手掛けた仕事です。
スピーチライターという存在に筆者が関心を持ったのは、6年前の2009年にアメリカの大手ケーブルテレビHBO制作の「BY THE PEAPLE THE ELECTION OF BARACK OBAMA」(邦題「バラク・オバマ大統領への軌跡」)を見てから。
この映画の中で驚かされたのは、オバマ大統領の主任スピーチライターであるジョン・ファヴロー氏が当時26歳であったということ。そしてホワイトハウス近くのスターバックスで大統領と直接に連絡を取り合い、草案を作成していることでした。

「気分転換に1~2時間毎に違うスターバックスへ移動しながら書くんだ」

とファヴロー氏はコメントしていましたが、職務内容が非常にナイーブで危険なものでしょうから、「お気に入りの決まったスタバで缶詰になって書いてる」ことなどある筈はなかろう、と思ったのを覚えています。
未だ日本では時の首相の所信表明演説ほか、広島平和式典など世界が注目する式典演説など様々な演説の度々「ゴーストが書いた演説ではないのか?」などの批判を目にすることは珍しくありません。
もちろん、「スピーチライター」は「ゴースト」ではありません。演説というものは国ひとつの将来がかかる仕事であり、首相という立場でも一個人の思想のみで書けるものではありません。周知の通り、首相の職務内容は多岐に渡り、30分の演説ひとつの文書作成だけに、大きな時間をかけることはできないはずです。
今や、政治家だけではなく、上場企業などにおける経営者にも「スピーチライター」は必要不可欠であるように思います。「スピーチライター」の役割とは、クライアントとビジョンを共有できており、俯瞰で現状分析ができ、将来の利害関係まで考慮したうえで、問題点を予測し先回りして代案まで用意し、素早く文書化することであると筆者は考えます。彼らの作成した演説原稿の絶妙な表現能力にも唸らされます。
筆者は今後も、世界情勢に鋭いバランス感覚を持つ谷口氏のスピーチライターとしての仕事に注目していきたいと思います。
 
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