メディアを選別する首相。権力に迎合するテレビ。

社会・メディア

榛葉健[ テレビプロデューサー/ドキュメンタリー映画監督]
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安倍晋三首相が、9月4日に日本テレビ系「ミヤネ屋」に生出演した時のことを書く。
参議院で安保法制の集中審議がなされている最中に、わざわざ大阪のスタジオまで来て、自説を1時間近く語った。自分をヨイショしてくれる番組には喜んで出演し、是々非々で対応する番組には「偏向番組だ」とレッテルを貼り、放送局の幹部を呼びつけて圧力をかける。
そうした姿勢は、国の代表者として首を傾げざるを得ない。
政治は言うまでもなく、自分達に対して批判的な声も含めて、様々な意見を吸い上げながら、合理的な着地点を見出していく行為だ。だが安倍首相のメディアに対する姿勢は、例えば、官邸の会見ではいつも、代表質問の後、特定のメディアと顔見知りの記者の質問しか受け付けない(JNN「報道特集」金平茂紀キャスター談)。
つまり太鼓持ちでないジャーナリストの質問を封じ込めて、存在しないように演出をしている。
今もなお国民の多数が「安保法制は憲法違反、もしくはその疑いが濃厚」だと考えている。それに対して安倍首相が都合の良い一部の取材にしか答えないということは、知る権利を持つ国民に対して、「十分に応えていない」ことを意味する。
首相は多くの批判を受けて、「丁寧な説明をする」と言ったはずだ。だが、その言葉とは裏腹に、首相は番組を選んでいる。「丁寧な説明」とは、さまざまな疑問を持つ人々に対しても、一定の理解を得られるまで語り合い、関わり続けることで初めて世間が「丁寧だ」と認めるものだ。
かつての歴代の首相たちは概ね、たとえ自分達に厳しい指摘がなされることが分かっていても、そうしたメディアの取材にも分け隔てなく応じていた。それが人としての責務だと自覚していたからだ。
批評的なまなざしとは向き合わず、自分の言うことを受け売りしてくれる番組にだけ幾ら出演したところで、「丁寧な説明」とは言えない。それはジャーナリズムではなく、「広報、広告」「印象操作」でしかない。
そんな無自覚な放送をするテレビ局の姿勢もまた、お粗末だ。番組の最後、司会の宮根誠司アナのまとめが、番組を象徴していた。

宮根誠司「(総理は)いつもおいしい所でご飯食べてはる」

安倍首相「いっしょに今度(ご飯)行きますか。大阪で」

権力に迎合する、腰ぎんちゃくの姿であった。
 
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