<ドラマ「三つの月」>北川悦吏子脚本の珠玉恋愛ドラマはなぜ「土曜日の午後2時」から放送されたか
高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
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10月3日にTBS系で放送されたドラマ「三つの月」。筆者がこれを見た動機は実に業界的なものである。
恋愛ドラマの巨匠・北川悦吏子脚本、主演・原田知世、谷原章介、八千草薫というテレビ欄では大変目立つドラマが、「なぜ土曜日の午後2時からという、大変視聴率が取りにくい枠で放送されるのだろう?」と思ったからである。
理由は見てすぐ分かった。冒頭に「文化庁芸術祭参加作品」とクレジットされ、次に製作著作CBC(中部日本放送)と出る。この番組は、名古屋の局がつくったドラマだったのである。
名古屋の放送局がつくるとなぜ午後2時からの放送になってしまうのかと、一般の人なら必ずや疑問に思うかも知れないが、そういうものなのである。「このドラマでは視聴率が取れない」とTBSの編成が判断したのかも知れない。
結果がどうだったかは、この原稿執筆時には知る術がない。もっと良い枠で放送してあげればいいのにというのが筆者の素朴な思いである。
内容は映像で描く「北川悦吏子の恋愛小説」という趣であった。
舞台は、北川悦吏子の故郷、岐阜あたりの山あいの美しい町。借景に白川郷の合掌造りが使われる。ヒロイン、小坂繭(原田知世)は、夫の面倒をみながら、家業の食堂を営み、長患いをする姑(八千草薫)の看病をする毎日。名古屋の音楽大学を出ているが、ピアノの腕前を披露できるのはママさんコーラスの伴奏をするときだけである。
この退屈で気詰まりな日常を繰り返している主婦、繭のところにやって来る「まれ人」。校歌のつくるために繭の地元に3か月滞在することになった東京青山に住む作曲家・秋風蒼太(谷原章介)である。
これを見て筆者は、「あっ、マディソン郡の橋」だ」と瞬間的に思った。「マディソン郡の橋」について、筆者は小説しか読んでいない。その小説も途中で不倫小説だと分かったので飛ばし読みにした。映画の方もこのタイプのストーリーが苦手なので見ていないので、詳しいわけではない。
作中では北川悦吏子らしい優れた台詞がぽんぽん飛び出す。筆者には想像もできない台詞だ。似たような台詞を書いたような記憶もあるが、それは恋愛を茶化すコントの上のことであった。
コント作家としての職業病なのか、台詞がストレートに響いて来ると、筆者はそれを受け止めきれず笑いに変えたいと思ってしまう。このドラマもまたそうであった。著作権とかいうものがないのならこの設定台詞を全部お借りして、配役をコメディアンにしてやってみたいと強く思ったぐらいだ。
- 原田知世役→しずちゃん(南海キャンディーズ)
- 谷原章介役→宮迫博之(雨上がり決死隊)
- 八千草薫役→久本雅美
脚本に忠実に演じれば演ずるほど別の悲しみとおかしさが出るのではないか。哀愁という泣き笑いは面白い。
この企画は絶対成功させる自信があるが、その前に、北川悦吏子さんがリメイクを了承してくれないだろう(笑)。
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