<NHK貧困女子高生で炎上>物語ありきで作られた「ニュース」などない
高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
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8月18日のNHK7時のニュースで放送された貧困女子高生特集がネット上で炎上しています。VTRで確認したので、ことの顛末を簡単に記します。
現在、日本では「子どもたちの6人に1人が貧困状態にある」のは統計上の事実です。さて、その代表としてニュースに登場し、貧困の撲滅を訴えた女子高校生が貧困とは程遠い生活をしていたとして、バッシングを受けているのです。
ニュースの映像では当該女子高生の部屋が写ります。いわゆるバッシングを行う人たちは、その映像の中に高額な商品がたくさん写っているのを見つけて、「貧困ではない」と断じたのです。
ひどいバッシングは認めることができません。女子高生が成し遂げたい貧困撲滅は至極真っ当なことです。
では、なぜこの炎上が起こったのでしょうか。
【参考】炎上ブーム時代のテレビ作り『だからデザイナーは炎上する』
筆者はこのニュースが取材した記者「先に物語りありき」という構造から離れることができずに、編集されてしまったからだと思います。
取材を始めるときには「こういう物語でまとめてみたい」と考えることは大事なことです。しかし大抵は始めに考えた物語は現実を突きつけられてその構想はもろくも崩れ去ります。それからが記者の能力です。現実に即して現場で処理する能力です。
最初に記者が考えた物語は次のようなものだったと想像できます。
<若者の貧困をなくすのに役立つニュースを放送したい。>
↓
<貧困状態にある若者を取材したい>
↓
<その貧困状態にある女子高生が自ら立ち上がって貧困問題に一石を投じる演説をすればドラマチックである。>
その後に記者は思ったかも知れません「これは貧困問題におけるSEALDsの奥田愛基氏に匹敵するかも知れない」と。
でも現実は記者が考えた物語通りではなかった。それをもう一度考える余裕と誠意を記者はなくしていたのです。始めに物語ありきでその通りに作っていくとしたら、それはニュースではなく、ただの塗り絵です。
当該記者は今、大きく後悔していると考えます。
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