<年末特番「アメトーークSP」批評>パクリたい-1グランプリ・運動神経悪い芸人・出川と狩野・アメトーーク大賞
高橋維新[弁護士]
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2015年12月30日放映のテレビ朝日「アメトーーク」の年末5時間スペシャル。内容は「パクリたい-1グランプリ」「運動神経悪い芸人」「出川と狩野」「アメトーーク大賞」の4本立てであった。前回(2014)の年末スペシャルと、放映の順番以外は全く同じである。
基本的におもしろかったので、文句をつけるわけではないが、それぞれの企画について論評したい。
1.パクリたい-1グランプリ
山崎弘也(ザキヤマ)と藤本敏史(フジモン)が他の芸人(主にあまり売れていない若手が中心)のギャグやネタをパクって演じるという企画である。
まず、パクられる側の芸人が自分のネタを披露する。その後、2人がパクったバージョンを演じる。パクられる側がネタを披露する第一段階では、あまりウケは大きくない。
出てくるネタは分かりやすいツッコミやフリのないもの(=シュールなもの)やリズムやフレーズに過度に頼ったものなどのいわゆる「ゲテモノ」が多いのである。だからこそこの人たちはあまり売れていないのである。
ところが、これをザキヤマとフジモンがやるとおもしろい。スタジオに入っている客の笑いも大きい。
なぜ2人がやった方がおもしろいのか。まず、2人とも明確なフラを持っているからである。ザキヤマはデブとブサイク、フジモンはブサイクのフラ(笑いを喚起するような外見や雰囲気)を持っている。同じバカをやるにしても、より滑稽になる。
次に、まずパクられる側によるネタ披露がフリとしての役割を果たしている。あまりウケないこの第一段階と、フラ持ちのザキヤマとフジモンが披露するパクリ芸を客が比較することで、フラ持ちがバカをやっているというズレが際立つ。
最後に、ザキヤマもフジモンもアドリブでやっているから、見ている方のハードルが下がるという点も指摘できる。
パクられる側は事前に考えた台本に基づいてやっているだろうが、2人は即興でこれを真似る。無論、動きが複雑なネタも混じっているので、事前に全く練習をしていないということはないだろうが、それを感じさせない。感じさせないのは、2人とも単純に丸パクリするのではなく、フレーズを微妙に変えたり、他の芸人のギャグを混ぜたりして、即興で考えた部分を組み込んでいるからである。
アドリブでやるからこそ、笑いで大事な奇襲感が存分に発現するのである。
ザキヤマも、フジモンも、すぐに出せるような他人のギャグをいくつも持っている。それはとりもなおさず他人のギャグに常にアンテナを張って、使いたいと思ったものがあったらいつでも出せるように練習しているということであって、そういう意味ではとても勤勉なのである。
今回でも、例えばトップバッターの「GO! 皆川」という芸人のギャグを他の芸人のところで出したりしており、単純にパクったからおもしろいというよりは、アドリブで暴れるザキヤマとフジモンがおもしろいというだけの話なのである。
また、既に売れている芸人(今回は千鳥)がパクられる側として出てくることもあるが、そういう場合はザキヤマとフジモンがパクらないというスカシのパターンでも笑いをとってくる。他の芸人に対してスベるようなムチャ振りをすることもある。
全体的には、ちょうど男子中学生や高校生が休み時間に遊んでいるような楽しさなのである。
少し難点があるとすれば、第一段階のフリ(パクられる側のネタ披露)で客が笑い過ぎなことである。あそこは単なるフリなので、もう少し静かにさせておいた方がいい。静かにできない客しかいないなら、客のいない別室みたいな場所でネタをやらせるという形もあり得るだろう。
2.運動神経悪い芸人
「ケナシ回」の典型例。
ただ出てくる芸人が慣れてきたのか、それとも何度も見ているこちらの目が肥えてきたのか、「わざとらしく」感じられた映像と「見たことあるな」と思った映像が多かったのが難点である。
今回筆者が心から笑えたのは、取り落としたマイクに気をとられている松尾の脳天にラグビーボールが直撃した瞬間と、有野がシュートしたバスケットボールがゴールに引っかかった瞬間の2つだけである。
いずれも、「わざと」を感じさせない説得力と、映像としての新鮮味があった。
今回初登場のしいはしジャスタウェイと歌広場淳も、別にこれまでの運動神経悪い芸人たちよりパフォーマンスが良かったわけではない。新競技の槍投げにおける芸人たちの動きにも特に新鮮味はなかった。
この企画は、明確な新機軸が打ち出せない限り、あと1回が限界だと思うのだが。
3.出川と狩野
これも「ケナシ回」の典型例である。
アメトーークで出川と狩野の天然がイジられる構図は「運動神経悪い芸人」以上にしつこく繰り返されているのだが、2人とも予想もできない方向から天然を炸裂させるため、飽きはまだ来ていない。これはもうしばらくは続けられる鉄板コンテンツだろう。
4.アメトーーク大賞
基本的に2015年の通常放映回の選り抜きであるため、新たに論評するようなことはない。こういう企画をやるんだとしたら通常放映が要らなくなってしまう気がするのは筆者だけだろうか。
少なくとも、1時間以上も時間をかける必要はないだろう。
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